06 12/5 UP
なんというタイトルだ(笑)。
原題直訳なんだけれど、別に水族館の話ではない。いや、主人公が幼少期に自然史博物館で見た、トラウマというべき巨大ジオラマ「イカとクジラの格闘」がそれに当たるのだから博物的なものと無縁というわけではないが、これはいわゆる暗喩なのである。
では何を示しているのかというと、ずばり「父と母の格闘」。これは1986年のブルックリンを舞台にした、家庭崩壊の物語なのだ。
難解な文学作品で知られ教師としても有能だが、ちっとも売れない作家の父(ジェフ・ダニエルズ)。よりわかりやすい作品で夫以上に有名になった、やはり作家の母(ローラ・リニー)。社会になじめない父はインテリジェンスの敗北に苛まれ、生徒を愛人とし、皮相で自虐的な言動へと逃れていく。母は夫にとっくの昔に愛想を尽かしていて、浮気しまくっていたことがやがて発覚。ふたりは別れることとなるが、真の被害者は思春期にある息子ふたりだ。
文学やポップ・ミュージック、あるいは映画など文化的表象をちりばめ、重いテーマを苦い笑いでコーティングした脚本は、製作のウェス・アンダースン的というよりもウディ・アレン的(NYという土地的背景もあるけれど)。少年が制御不能の性的衝動に陥るあたりの描写はトッド・ソロンズふうの「いい悪趣味」でもある。澱のような不安感を漂わせる16mmの粒子の粗い画面も含め、これが初監督という監督ノア・バームバックの才気は明らかだ。まぁ、欲を言えばヌケがもうひとつなんだけど、それは次作に期待!