とにかく、滅多やたらと面白いのだ。
テーマそのものは「夢と現実」「妄想」、あるいは「映画愛」といった、今までくりかえし今敏が扱ってきたものと変わりない。とりわけ『千年女優』『妄想代理人』とは密接なつながりにあるようで、ファンなら見覚えのあるイメージもかなり登場する。しかしそれらを安易に「二番煎じ」などとは言わせないような推進力がここにはある。今敏のトレードマークたる「徹底したリアリズム」をいささか後退させてまで、ケレンだらけの圧倒的なスピード感で一気に観せきってしまうのだ。
他人の「夢」をモニターする新装置をめぐるミステリーを、美貌のセラピスト千葉敦子=夢探偵パプリカが識閾下にダイヴして解き明かす……筒井康隆の原作をぐっと圧縮・簡略化したストーリーはそういうものだ。ま、アイデアそのものは15年前の発表時こそ斬新であったが、今にしてみると少々使い古された感もあるだろう。元来ツツイスト=筒井信者であるという今敏は(筒井に決定的な影響を受けたという元P-MODEL・平沢進のエレクトロニカもそうだが)、有機物無機物ゴタマゼにパレードする祝祭的な悪夢の光景とか、ナンセンスな七五調の言葉遊びなど原作者へのオマージュをあちこちにちりばめる。しかし決定的な勝因は、コスプレしまくりパンチラ上等の「変身美少女ヒロインもの」として大胆に換骨奪胎しきったことだろう。
すべての登場人物を陰と陽、対になるように明確に関連づけながら、「女性的なるもの」の勝利へ収束する、という構成も明確。イメージ自体は制御不能ギリギリの混沌にあふれていても、理知的かつシンプルな印象を与えるのはそのためだ。
……とはいえアニメーションというのは、その制作過程を考えても「制御されていない」などということはあり得ない。それだけアニメーター集団マッドハウスの仕事はまさしくマッドである、ということ。今年彼らが放った『時をかける少女』『ケモノヅメ』といった異様なる傑作を考えれば、その有無を言わさぬ勢いと技術力の成熟は一目瞭然なのだが。
Text:Milkman Saito