アメリカで大人気のコメディアン、デイヴ・シャペルが発案して開催された一夜限りのヒップホップ・ライヴ。これはその開催前からライヴ終了までの過程を追ったドキュメンタリーである。
シークレットパーティの割には、ヒップホップ好きなら喜ぶメンツがライヴに参加している。ご存じカニエ・ウェストに始まり、モス・デフ、コモン、ザ・ルーツ、エリカ・バドゥ、最後にはフージーズ再結成まで! これらのライヴ映像が観られるというだけでも充分、納得といえるだろう。しかし、それだけではただの音楽映画。ヒップホップが好きじゃない人は興味がでない。この映画には、ヒップホップを知らない人、偏見を持っている人にこそ観て欲しい本質的な要素もまた、たっぷりと詰まっているのだ。
もともとデイヴ・シャペルのコメディスタイルは、黒人である自らを笑い飛ばすような自虐的人種差別ネタなど、アイロニックな風刺が込められている。テレビではなく映画だから言える過激な言葉をここぞとばかりに連発するなど、そのスタイルはこの映画でも一貫されている。彼は常に人種差別問題を訴えかけながら、それをエンターテイメントとして成立させる努力をしているのだ。
ちょっと反則的な見方をしてみる。
アーティストが歌う歌詞にすべて字幕がついている。英語がわからない以上、字幕をどうしても追うことになるが、それによって何か壮大なポエムかメッセージでも読んでいるような、そんな気持ちにさせられるのだ。収録されている曲も、意図的にステイトメントが込められた曲をピックアップしているに違いない。ステージ裏などのオフショットでも、ただアーティストがくつろいだり、楽しそうにしている姿だけではなく、それぞれの確固たる主張がカメラに収められている。イヤでも直接的にメッセージが心に響いてくる。
シャペルは故郷のオハイオで、白人中年女性なども招待している。もちろんヒップホップに興味はない。そんなゲストを黒人の象徴ブルックリンへ。そして彼がオハイオから連れてきた大学生のマーチングバンドに対して出演者のひとり、ワイクリフは声高に鼓舞する。「なんでも白人のせいにするな、自分で勝ち取れ!」と。まさに成功して、自らの信念をエンターテイメントという形で伝えることを「勝ち取った」のがデイヴ・シャペルだ。黒人の黒人による黒人音楽(=ヒップホップ)のドキュメンタリー。黒人以外が観ることで、この映画の本当のメッセージを感じ取ることができ、意味が出てくるのではないか。