06 10/19 UP
またしても逼迫感をいや増す出来事が起こってしまった今日この頃なのだが、そんな政治的・歴史的な緊張構造がいまだ厳然と存在するという事実もまた、いまの韓国映画がパワフルである理由のひとつなのは間違いない。昨年、韓国で記録的な動員となった本作にも、そうした情勢のモデルははっきりと明確に示されているのだけれど、まぁ、ここまで堂々とエンタテインメントされちゃうとひたすら唸るしかないんだよなぁ。
朝鮮戦争まっ只中。山深い森の中にひっそりと佇むトンマッコルは、そんな争いからまったく隔絶されたのどかな村。まさにユートピア然としたこの地に、地上的混乱とイデオロギー対立の縮図というべき韓国軍・北朝鮮軍・アメリカ軍の三者がそれぞれ迷いこんでくる。彼らは次第に「知らんもん勝ち」な村人の能天気さに感化され打ち解けていくが、それを許さないのが地上の論理。目前に迫った理想郷の危機に、兵士たちはついに立ち上がるのだ。
偵察機、ポップコーンの雪、落下傘部隊、爆弾、そして無数の蝶々といった「空からの落下〜飛翔」のイメージが要所で繰り返され効果的(CGの使い方も非常に巧い)。これが「天空=理想」と「地上=現実」のあいだにあるユートピア……たとえば「太陽政策」とか「南北融和」といったおそろしく現実的な問題に対する回答として、トンマッコルをやけにリアルたらしめているのだ。
実力派シン・ハギュン、チョン・ジェヨンも交えた兵士たちのアンサンブルもいいが、村の象徴的存在であるカン・ヘジョンの妖精ぶりが可愛い。最近アジアでの仕事が多い久石譲の音楽も近年のベストではないかな。
Text:Milkman Saito