タダでさえ髪が薄いのに、いっそうキッつい剃り込みと深い額のシワを特殊メイクで書きこんだブルース・ウィリス。アル中で意欲ゼロ、事件現場の留守番を投げやりに頼まれるようなワケあり刑事だからその風貌にも説得力があるんだけど、ここまで崩せばしばらくは彼と判らないほどだ。昨年の『ホステージ』のように、くたびれた男の演技が実にいい最近のウィリスなのだが、今回も登場シーンからしてやる気が沸々と伺える。
その期待は裏切られないだろう。ウィリス演じるジャックは、退署まぎわに「ちょっとした仕事」を上司に押しつけられる。ある事件の証人という黒人青年エディをたった16ブロック先の裁判所まで護送することだったが……それが災厄のはじまり。単なるチンピラと思えたエディは、実は警官の不法行為の目撃者。ニューヨークじゅうの汚職警官たちから命を狙われていたのだ。かつて同志だった悪徳刑事(デイヴィッド・モースが流石にいい味)からそれを聞かされたジャックだが、眠っていた何かに突き動かされるように、同僚たちを敵に回すのも覚悟で16ブロックの地獄へと踏みだすのだった!
……って、この設定。おいおい、クリント・イーストウッドの快作アクション『ガントレット』に酷似してないかい? 案の定、ハイジャックしたバスを楯代わりに銃弾の雨の中を移動する、なんてシーンはほとんどオマージュとも受け取れるほど。監督はそのクリントと同い年、今年76歳になるリチャード・ドナー。『オーメン』『スーパーマン』『グーニーズ』『リーサル・ウェポン』といったブロックバスター専門のイメージがある彼だが、この齡になってこんな小股の切れ上がった小品を撮りあげるなんて素敵じゃないか!とB級好きは思わず唸ってしまうのである。
とにかく危機また危機、激しいチェイスの連続に息がつけぬ展開なのだが、この緊迫感をさらに煽るのがエディ役モス・デフのとめどなき喋り。追いつめられた者の不安と恐怖、そして本作のテーマともいうべき「改心」の情を、ユーモラスに演じて素晴らしい!