近ごろ流行の、地域プロモーションの一環として成立した“ご当地映画”である。地域に密着したきめ細かなサーヴィスとアフターケアで、大型量販店に押されながらも生き残る、和歌山県田辺市の電器屋のお話。商品を買ってくれた客の部屋の模様替えまで手伝ったり、新品を売りつけず小まめに修理を請け負ったり……時代遅れで実入りが少ない(電器屋なのに電気を止められたこともある)頑固な父のやり方に反発あるいは“洗脳”された三姉妹を中心に置き、父娘関係の対立・修復や、人間らしいコミュニティのあり方などがほんわかムードで柔らかく問われていくのだ。
……と、こんなふうな説明じゃ、お行儀ばかりよくて当たり障りのない作品と思われるかも。ところが本作、極めて無駄なくスマートな、洗練されたコメディとして今年の日本映画出色の出来なのだな。監督は自主映画出身の安田真奈。驚くほど些細で意表を突く日常的ディテイルが繊細な観察眼を示し、いかにも実際にありそうな電器トラブルのエピソードは地に足ついたリサーチ能力の高さを伺わせる。そのうえ特筆すべきは、ときおり炸裂するぶっ飛んだギャグ!もちつき器で爆笑させられたのは初めてだな。
なんとも難儀なオヤジだが案外女性にはモテてたっぽい父親に(浮気疑惑のハナシもとてもいい)、いまでもほのかに色気を残す沢田研二というのもいいキャスティング。しかしなにより素晴らしいのが、本上まなみ・上野樹里・中村静香の三姉妹のアンサンブルなのだ。ナチュラルな関西弁と驚くほど誇張のない演技でリアリズムを貫いて、父娘の心情の機微を嘘くさくなく爽やかに描いて見事。とりわけ上野は、三木聡の『亀は意外に速く泳ぐ』に続きコメディエンヌの才を咲かせた格好。もうすぐ公開の『虹の女神 Rainbow Song』も含め、彼女は今、確かに旬だ。このブーたれよう、並の役者じゃできません。