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ジャーナリズムとエゴイズムは、いつの世にも極めて近い位置にある。いわゆる「特ダネ」を手中にするには、他人の恥部を暴いてナンボ、好意や人情を利用してナンボ、人間性を押し殺してナンボなのだ!

……などと言い切るといささか露悪的に過ぎるかも知れぬけれど、つまるところ、そんな危険と常に隣り合わせにいるのは間違いない。

本作は、トルーマン・カポーティがノンフィクション・ノヴェルのメルクマール「冷血」を完成させるまでの経過を追ったもの。文才と話術と特異なキャラで(オネェのゲイってことだ)、NYのセレブリティとしての地位を築いたカポーティは、ある朝新聞に載っていたカンザスの一家殺人に即座に目をつけ……つまり「ネタになる!」と即断し、幼なじみの女性作家ハーパー・リー(彼女の「アラバマ物語」は今なおヒューマニズム文学の代表作とアメリカでは見做されるものであるからして、その対比も面白い)を誘って現地へ赴く。口八丁で情報提供者の懐に入り込み、ワイロでついに犯人に面会。どう見たって有罪である判決を、自分の取材が満足にできるあいだだけ引き伸ばすため弁護士を雇ってやったりするのだ。

でもそのおかげで再審が通ってしまうと、自分の著作の結末を早く書いて出版させたいために(なんせ最期は死刑になってくんないとプランが狂う)連絡と援助を断ちきったりする。……いやはや、これじゃどちらが「冷血」なのか判らんわな。

しかしその打算づくしの駆け引きの中に、犯人のひとりペリー・スミスへの明らかに同性愛的な感情の交流が変数として介入してくるのが面白いのだ。結果、「冷血」後のカポーティが何故まとまったモノを書けなくなってしまったのか、映画はその謎にまで行き着くこととなるのだが、とにかくフィリップ・シーモア・ホフマンが凄い。確かにカポーティ本人に似ている。激似といってもいい。でもいわゆる物真似を完全に超え、彼にもたらされる永遠の責め苦を、心の闇の深さいっぱいに表現して見事である。

『CAPOTE』
監督:ベネット・ミラー
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン 、キャサリン・キーナー 、クリフトン・コリンズ・Jr 、クリス・クーパー 、ブルース・グリーンウッドほか
2006年/アメリカ
上映時間:1時間54分
配給: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

2006年9月30日(土)、日比谷シャンテシネ、恵比寿ガーデンシネマほかにて全国ロードショー!

http://www.sonypictures.jp/movies/capote/

www.honeyee.com

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