その女優だけをみつめて作られた映画というものがある。監督やプロデューサーが、特定の女優に惚れこみまくった結果、いつもとは明らかに異なるテンションで暴走しちまった映画というものが。テリー・ギリアムの新作『ローズ・イン・タイドランド』こそ、まさにそういう映画だ、ってのは観はじめてすぐに判ること。もともと「普通じゃない監督」の筆頭格に挙げられるべきギリアムだけど、今回は目つきが違うというか何というか(笑)。……たとえば前作『ブラザーズ・グリム』で完膚なきまでの美女モニカ・ベルッチを起用しておきながら、やる気の伺えない作品ともども退屈至極に撮られていたのと好対照だ。
じゃあ、そんな変人ギリアムをむくむくと勃ちあがらせてしまった女優とはどんな凄い女優なのか?ってっと、なんとそれはまだ10歳の子役、ジョデル・フェルランドなのであった。ほとんど出ずっぱり、イキっぱなしのひとり芝居。「不思議の国のアリス」をイマジネーションの源に置いた、どこまでも無垢で邪悪な“性に目覚めかけた少女”の内的世界(インナーワールド)を自由奔放悠々堂々と怪演する。父親(ジェフ・ブリッジス)のヘロイン注射を手伝ってやる(!)ときの、テキパキしすぎた無駄のないアクションからして惚れぼれ、キャメラの向こうでニヤついてるド変態ギリアムの姿が目に浮かぶぜ。おかげでタガが外れたように「やってはいけないこと」ばっかりやっちゃった、ギリアムのフィルモグラフィでも最凶の、稀代の怪作が生まれ出たわけだ(おかげでアメリカじゃお蔵入り同然)。
ところでそのジョデルちゃん。実は同時期公開となるグロテスク・アート指向いっぱいのダーク・ファンタジー『サイレントヒル』にも極めて重要な役で快演しているのだ!これがもう、昨今流行のゲーム映画化作品としては空前絶後の完成度。クライヴ・バーカーあたりが好きなホラー・マニアにはたまらん、カルト化必至の死臭漂う傑作といえる。…しっかし彼女、ここまで容赦のない作品ばっか出て大丈夫なのかね?