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『リトル・ダンサー』がバレエに目覚めた男の子の話なら、『リトル・ランナー』はマラソンに目覚めた男の子の話。……では確かにあるんだけど、これは邦題に限ってのこと。原題は“Saint Ralph”、つまり「聖ラルフ」だ。
舞台は1953年、カナダにあるカトリック系学校。14歳の主人公ラルフは、病気で昏睡状態に陥った母を目覚めさせるため、授業で聞いた「聖人の奇蹟」を実現しようと決意した。目標はたった数週間後に行われるボストン・マラソンでの優勝! ただし走りに関してズブの素人である彼は、友人の嘲笑や校長の脅迫にも聞く耳持たず、ワケあり教則本片手にただひたすら走りはじめる。
といってもこのラルフ。かなりエキセントリックかつルナティックな体質(実際、満月の夜に走ったりするし、眠れる母に聴かせるレコードはドビュッシーの「月の光」だ)ではあるけれど、宗教バカ・神懸かりってワケではまったくない。校則なんて屁とも思わず、学内で煙草吸っては校長にシラっとヘリクツ言ったり、女の子をやたら大人びた台詞で口説いたり、女子更衣室覗きながらプールの気泡で××したり。なのに神のヴィジョンを視たりする突拍子もなさは、アッシジの聖フランチェスコを見ても判るように風狂の士ほど神に近いということで、あんがい信心の本質を突いている(ダニー・ボイル『ミリオンズ』に出てきた聖人マニアの少年に通じるものがあるな)。
ちなみに、当然のごとくボストン・マラソンがクライマックスとなるワケだが、どうやらその次第は実際の1953年度大会とはまったく異なっているらしい。記録調べりゃ誰でも判るのに、堂々と嘘八百で盛り上げる、この姿勢こそ映画ではないか。
Text:Milkman Saito