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派手さには欠けるが極めてアクチュアルで骨太な傑作が揃った今年のアカデミー賞レース。それでも『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本を書いたポール・ハギス初監督作『クラッシュ』の作品賞・監督賞・脚本賞はじめ主要6部門へのノミネートはちょっとした大穴だった。
決して巨大とはいえない規模の作品ではあるけれど、アンサンブル・キャストの面々 はかなり豪華。ロサンジェルスの黒人刑事(ドン・チードル)と、出世の過程で結果的 に見捨ててしまった家族たち。彼のプエルトリコ系の恋人。レイシストの白人警官(マット・ディロン)と、彼を苦々しく思う相棒警官(ライアン・フィリップ)。検問で辱めを受ける黒人TVディレクター夫妻(テレンス・ハワード&サンディ・ニュートン)。 ペルシャ人の雑貨店主とヒスパニックの鍵屋。検事夫妻(サンドラ・ブロック&ブレンダン・フレイザー)とふたりの車を盗む若い黒人。
9.11後の世界を象徴するように、別々の場所で別々に生きる彼らは激しく衝突(クラッシュ)する。それぞれのエピソードは絡み合いもつれ合い、無理解と誤解と被害 妄想からくるクライシスが連鎖・拡大していく。そのすべてが人種差別と銃をめぐる問題に繋がっていくのは、今どき珍しいくらいにテーマ性をしっかり意識した作劇といえるかもしれない。群像劇としてはひじょうに生真面目で交通整理が行き届いているぶん、いささか世界観がアタマでとどまっている気もするけれど、ま、それは贅沢というものだろう。この巧さを存分に堪能すべし。
Text:Milkman Saito