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少なくともこの30年間、ニューヨークを代表する映画作家といってまず誰もが思い浮かべるのはウディ・アレンの名前であったろう。

その彼が、なんとニューヨークから去ってしまったという。現在欧米で大変な評判になっている新作“Match Point”の撮影地はロンドン。しかも当分はこの地を離れるつもりがないというのだ。どうしてまた…?

それは9.11直後に作られた『僕のニューヨークライフ』を観れば幾分か理解できるのではないか。持ち前の毒っ気あるユーモアと色っぽさは残しつつ、いかに彼がアメリカに絶望し「ニューヨークの作家」としての自分にひとつの区切りをつけようとしていたのかが如実にあらわれているのだ。

なにしろ本作は、NY映画のエポックにしてウディが独自の文法を確立した『アニー・ホール』('77)の相似形として作られている。30年後のいま、いわば「原点」に戻ってみるというのは、それ相応の覚悟…というか決意あってのことだろう。

『アニー〜』でウディ自身が演じた役にそっくりな主人公ジェリー(ジェイソン・ビッグス)は、仕事の先行きに不安を持ち、どうにも難儀な恋人(クリスティーナ・リッチ)に振り回されるコメディ作家。今回ウディが演じるのは若手のジェリーに何かとアドバイスする師匠のような存在・ドーベルだが、このキャラクターもまた、極めて問題アリなのだ。“反ユダヤ主義の被害妄想”はいつものことだけど、それが昂じて銃まで携帯し、ジェリーにも強引に勧めるのである!こんなの今までのウディなら絶対演じなかっただろう。

つまりドーベルの支離滅裂な行為と思想は、9.11を契機にニューヨークのインテリ層にも訪れた心理的クライシス/精神的パニックの戯画であるに違いない。知識人たちが否定したいけど否定できない漠とした不安の実体化に他ならないのだ。

ジェリーとドーベルがラストで採る行動もいかにも示唆的である。つのる思いはこの地に残しながらも、ウディにとって今のニューヨークは、すでに安息の地ではなくなってしまったんだろうな。

「僕のニューヨークライフ」
http://www.ny-life.jp/
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ジェイソン・ビッグス、クリスティナ・リッチ、ウディ・アレン、ストッカード・チャニング、ダニー・デヴィート

2003年/アメリカ映画
1時間52分
配給:日活
恵比寿ガーデンシネマにて上映中 ほか、順次全国ロードショー

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