9年振りニューアルバム『SOUND MIRRORS』を携えて、シーンに復帰するコールドカット。日々、目まぐるしく変化する音楽シーンにあって、9年という歳月はあまりに大きなブランクである。が、ジョナサン・モアとマット・ブラックからなる、この2人組の名前を知らなかったとしても、あなたは決してコールドカットと無関係ではない。'87年にイギリス初のサンプリング・ブレイクス「SAY KIDS WHAT TIME IS IT?」を発表し、ブレイクビーツを一つのアートフォームへと昇華した彼らは後のアーティストに多大な影響を与えた一方、サンプリングの概念を映像にまで広げ、早くから音楽と映像の融合を実践。ソフトウェアの開発も含め、これまた後に一つのアートフォームとして認知されることになるVJの発展に寄与してきた。それは、つまり、今日の音楽のほとんどは間接、直接を問わず、何らかの形で彼らの影響を受けているということを意味する。その彼らが新作と共に遂に動 き出す。
「前作から今に至る9年は、もちろん、(彼らのレーベルである)NINJA TUNEの 運営にも携わっていたわけだけど、プールでのアート・インスタレーションや短編映画の制作、ラジオ舞台劇のプロデュースなんかを手掛けつつ、その全てが研究につぐ研究の時期だった。その全ての成果がこのアルバムには注ぎ込まれていると思う」(ジョナサン・モア) 彼らが開発したVJソフト「VJamm」の最新版がバンドルされている本作だが、ジョン・スペンサーとマイク・ラッドをフィーチャーした先行シングル「EVERYTHING IS UNDER CONTROL」をはじめ、ルーツ・マヌーヴァ、ソール・ウィリアムズ、はたまたロバート・オウエンスといった多彩なゲストを交え、最新モードにアップデートされたブレイクビーツで軽々とジャンルを超越。と同時に、9年の歳月は彼らの音楽性をファンキーなものから、ソウルフルなものへと熟成させ、全12曲に渡って視覚的なサウンドスケープを美しく広げている。そこに映し出されるのは、彼らの成熟した内面やシリアスな社会情勢、はたまた、ちょっとしたパーティの馬鹿騒ぎの光景と、曲によって、聴き手によって異なる多面的な像であり、その移ろいゆく様は「音の鏡」と題されたアルバムの大きな魅力である。
「僕らは9年間で歳を取ったし、大人になったんだ。だから、真剣な課題に向き合うことは多少意識したことではあるよね。ただ、人生はシリアスな瞬間ばかりだし、それを笑い飛ばさずにはやってられないと思うんだ。このアルバムではその(日本語で)「二面性」を楽しんで欲しいね」(マット・ブラック)