05 11/29 UP
そうかぁ、もう10年になるのか。デンマークの奇才ラース・フォン・トリアーらが“映画の原点回帰”を提唱し、「ドグマ95」なる運動を立ち上げてから。
いわゆる商業的セオリーに反旗を翻して、「撮影はロケのみ」「音楽をわざわざ使っちゃダメ」「キャメラは手持ちのみ」「特殊処理は認めない」などの制約のもと、可能なかぎりピュアなかたちでの劇映画づくりを目指したものだったが、これらはHDキャメラの普及による低予算映画の台頭でさほど特殊性がなくなってしまい、事実上雲散霧消。…でもこの状況って、ある意味ドグマの勝利かもね。
もっとも“ドグマの誓い”とて完璧に守られたことなど一度もありゃしない。それでもかなり遵守された部類に入るのが『セレブレーション』('98)であって、その監督トマス・ヴィンターベアと言い出しっぺ・トリアーが脚本家として組んだ普通の映画が『ディア・ウェンディ』だ。アメリカを舞台にした“平和主義なガンマニア”の物語だが(でも撮影はデンマーク)、登場人物は大真面目、でも作家の意図は皮肉たっぷり。と同時に『ワイルドバンチ』を彷彿とさせる西部劇精神の嫡流であり、哀しき恋愛映画でもあるのだが、あれれ、ウェンディなる女性は劇中に出てこない。“彼女”がどこに出てくるのかは実際に観て確かめていただきたいところ。
蛇足ですが、『ミフネ』('98)や『キング・イズ・アライヴ』('00)の脚本でドグマ運動に大きく関わったアナス・トマス・イェンセンの監督作『フレッシュ・デリ』('03)がDVD発売される。ま、人肉嗜食をめぐる悲喜劇なのですが、このテのキワモノのパターンを踏襲しつつ後味さわやかな快作。ぜひお試しを。
Text:Milkman
Saito