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THINK PIECE

大沢伸一 × YOSA

「“存在の仕方”もクリエーションの一つ」

16 4/27 UP

photo: Shoichi Kajino
interview: Tetsuya Suzuki

長きに渡り国内トップDJ/プロデューサーとして活動し、先日Mondo Grossoの活動再開を宣言した大沢伸一と、
渋谷SOUND MUSEUM VISIONの人気イベント”Modern Disco”にてレジデントDJを務める傍ら、
様々なラッパー、ヴォーカルをフィーチャーしたセカンドアルバム『Orion』をリリースしたYOSA。
これまでもDJとして共演することがあった両者だが、YOSAのアルバム収録楽曲の
リミックスを大沢伸一が手がけたことを機に、初の対談が実現。

 

──
YOSA君のニューアルバム『Orion』の収録曲を大沢さんがリミックスされたのですよね。
YOSA(以下:Y)
「そうなんです。リード曲の”夜明け前 feat. ZOMBIE-CHANG & SALU”という曲をリミックスしていただきました。アルバムは既に発売されていてMVにもなっている曲なのですが、5月末にリリースされる7インチに大沢さんのリミックスが収録され、その後デジタルでも配信される予定です」
──
YOSA君のDJとしてのキャリアはテクノやハウスに近いところからスタートしていると思いますが、今回のアルバムでは、ハウスのグルーヴ感にヒップホップのBPMを融合させたものになっていますね。
Y
「おっしゃる通り、僕はもともとDJがクラブでツールとしてプレイするためのトラックを作っていて、主にヨーロッパのレーベルからリリースしていたんです。ただそれを続けていくうちに、そういったダンストラックだけでなく、もともと自分が持っていたポップな感性を活かした、より間口の広い音楽を作りたいと考えるようになったんです。そこで、それまで自分が作ってきたアンダーグラウンドなダンスミュージックの質感やグルーヴ感を残しながら、日本語ラップやヴォーカル、メロディアスなギターサウンドといったものをミックスした結果、今回のアルバムのような形になったんです」

──
ダンスミュージックを入り口にしながら今回のようなポップなサウンドにたどり着いたYOSA君と、ポップミュージックのシーンを経てからダンスミュージックに特化されていった大沢さんとでは、ちょうど「入り口」と「出口」が逆になっている気がします。そこに時代の違いを感じます。
大沢伸一(以下:O)
「今、音楽を作る環境はPCがベースになっていて、大半の人はテンプレートとしてソフトのなかに用意されたものの中で曲を作ろうとしているのだと思いますが、僕も含め、カウンター的な気持ちを持っている人、人と違うことをしたいと考える人は、サンプルソースや自分オリジナルの質感で勝負するという方向に行き着くんだと思うんですよ。それを今の時代、今のシーンの中でYOSA君が見いだしたのが、このアルバムの方向性だったんだと思いますね」
Y
「まさにそうなんです。今も活動のメインは、自分自身のルーツでもあるアンダーグラウンドなダンスミュージックシーンだと思っているのですが、今回のアルバムのようなポップな作品を出すことは、自分が今いるシーンに対する自分なりのアンチテーゼであり、問題提起なんです。当然そこに大きなリスペクトがあって、自分が大切にしたい場所だからこそなのですが、閉鎖的で周囲を寄せ付けないムード、下手すれば身内ノリとも取られかねない雰囲気が存在するのも事実で、このままだと時とともに廃れていってしまうという

 

危機感もあるんです。そこで活動する自分がこういうアルバムを出して賛否両論を生むことで、停滞した空気に少しでも刺激を与えることができればと思ったんです。クラブという場所、ダンスミュージックのシーンはそもそも自由な場なんだから、DJとしてアンダーグラウンドなことをやりながら、作品でポピュラリティを得る要素があるものを作ってもいいじゃないかと。もちろんそういったポップなものも自分が好きだから作ったというのは大前提ですけれど」
O
「すごくよく分かります。僕がMondo Grossoとしてリリースを重ねていって、ある程度のポピュラリティを得た時に、よく『DJを聴きに行くとCDと全然違う』と言われていたんですが、ある意味、その時の状況に近いんじゃないですかね。当時僕がJ-POPのフィールドを中心に活動していた頃、同時にDJもやっていたのですが、DJとしてプレイする時はそういうものをかけるタイプではなかった。リリースパーティでも一晩で二曲くらいしか自分の曲をかけなかったくらいで(笑)。クレームに近いことまで言われた経験もあるのですが、僕の中で筋を通すと、そうなるんです。クラブはポップミュージックで満たす場ではないという自分なりの美意識があるので、自分の曲をかける時はミックスを変えるなどして、自分が作るものとシーンをコミットしてきたつもりです」
──
大沢さんは今回リミックスされた楽曲も含め、YOSA君のアルバムを聴いてどんな感想を持たれましたか?
O
「90年代の渋谷系、今で言えばシティーポップと呼ばれるようなものをイメージしましたね。さっきも言いましたが、全体的な制作環境の流れとして、これだけ世界的にテンプレートミュージックが溢れていると、ひねくれた人はオリジナルな匂いをもった音色のソースを探すようになって、そうするとサンプリングという手法に行き着くんだと思うんです。そして、そのサンプルの選び方や使い方、リクリエイトの仕方が個性に繋がる。そういう意味で、僕が今やっていることもそう遠くないことですし、考え方や手法としてもものすごく共感できるんですよ」

──
“夜明け前”で言うと、オリジナルはクールなリズムのトラックに対して生のギターがフィーチャーされた、体温を感じさせるエモーショナルな楽曲でしたが、大沢さんのリミックスでは逆にテクニカルなエレクトロニカの要素が強い仕上がりになっていますね。
O
「今回はウワモノに対して原曲と聴こえ方が大きく変わるようなものにしたいと思ったので、エレクトリックなリハーモナイズという考え方でリミックスしました。ダンストラックというよりは、僕なりの美意識を持って美しい音楽を目指したつもりです。僕も2000年代の頭からこれまで10年以上DJベースの活動を続けてきて、そこに対するある種の落胆と希望が入り交じっている状況で、去年の暮れくらいから今年はDJを減らして自分の作品制作に重心を置こうと決めたんです。そうやって自分の音楽に向き合うと、必然的にダンスミュージック自体が音楽という大きなくくりの中の一部でしかなくて、そこで自分のすべての音楽性を表現することはできないということに改めて気づいたんです。ダンスミュージックは踊れるという機能を持った音楽で、そこに特化してソリッドになっていった結果がテクノですよね。それはそれで美しいし、僕の一部でもあるのですが、それが自分の作品となった時には人を排除するようなものではなく、もう少し広い間口で音楽をやりたいと思ったんです。それはまさに、さっきYOSA君が言ったことに共通する感覚ですよね」