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THINK PIECE

groovisions firstlight

書籍とアプリの連動エキジビション、
「グルーヴィジョンズ ファーストライト」

15 7/08 UP

photo: Erina Fujiwara
interview: Tetsuya Suzuki
text: Misho Matsue

今年6月、東京のデザインスタジオgroovisionsが作品集『groovisions highlight』、さまざまなジャンルの道具を
紹介する本『groovisions 100 tools』、そしてオリジナルのiPhoneアプリ「chappie」をほぼ同時期に発表。
表参道のGYREでは、これら一連のイベントを反映させた展示「groovisions firstlight」が開催されている。
本展は『groovisions 100 tools』の内容を反映させた期間限定セレクトショップの構成で、セレクトされたモノの一部を
実際に購入できるほか、最新のグラフィックのインスタレーション、「chappie」アプリも展示。
groovisionsの多角的な展開に関し、代表の伊藤弘に話を聞いた。

 

──
前回の作品集『GROOVISIONS MGR』は7年前でした。今回出版された『groovisions highlight』は、それ以降の作品を収めているわけですが、掲載にあたり多くの仕事の中から作品を選んでいく際の基準はありましたか?
「クライアントも幅広くなってきているので、イメージも拡散しているというか。そこから次に繋がるであろう要素をピックアップするのが難しく、さらに今回は自分たちで編集もしたので、それがまた大変でした。10冊作ったくらいの勢いで何回も作り直しました」
──
この一冊を通して見るだけで、groovisionsが実にいろいろな仕事をされているのがわかります。ここに収められたコマーシャルな世界でのグラフィックデザインは、一般にクライアントの意向を重視する世界。それでもgroovisionsの作風を強く感じる。
「これでも大分弱くなったと思うんですけどね」

──
その「弱めたこと」が、逆に個性を強調している部分もあるのではないでしょうか。フォントや色の使い方など、デザインのベーシックな部分で「groovisions流」を確立しているというか。
「どうでしょう。僕らはなるべく普通のデザインをしているつもりなので、その意味ではいろいろなものと相性は良い方だと思います。以前はデザインも差別化を追求してどんどん複雑になっていった時期もあったけれど、ゼロ年代くらいからシンプルなデザインをするようになった、というのはあるかもしれません」
──
シンプルさが個性であると同時に、ある種の普遍性を備えている。
「やり方そのものは決して自分たちが発明したわけではありませんが、僕らはけっこうしつこくやりますからね」

 

──
“平面的で徹底的にシンプル”というコンセプトをすごく極端にやったことで、groovisionsの世界が完成したのだと思います。それは意識的なものなのでしょうか。
「実際にはもっとやり散らかしているので、作品集のために選んだ段階で強調されたのかもしれません。こういう作品集って、ある意味では虚構であって。これを作ることで、あとから僕ら自身も自分たちの作風を意識するようになるところもある。それに、僕が中心的なアートディレクターとしてピラミッド状にできている組織であれば話は別ですが、僕はなるべく中心からはずれていて。真ん中を空洞化した組織や作品づくりをしていると思うんですね」
──
それはなぜですか。
「そのほうがフェアなような気がしていています。多分、僕自身があまり自分の作家性を信じていないのもあるし、そもそも、天才でなくても、ちょっと知恵とテクノロジーを使えばデザインは可能なんだ、というのがうちの大きなコンセプトでもあったので、『やはり自分の作家性が~』とか言い始めると矛盾してしまう。そうやって続いてきているのだと思います」
──
人間の精神や個性を否定してますからね、伊藤さんは(笑)。たとえば、chappieという「キャラクター」は、バリエーションはあっても個性がない。そういう意味で、chappieってgroovisionsにとってすごく象徴的なものですよね。非人格の存在を人格化みたいな。
「そうですね。今回のアプリは、chappieをベースに背景や目の色、髪型を選んでオリジナルのアイコンを作れるものなんですが、chappieはもともとこういうツールには向いていると思います。そして、今回のアプリは僕らにとって実験的な意味あいもあります。これは僕の昔からの持論ですが、人の顔って大きく見ればあまり違わない。顔はむしろ言語記号的な認識のされ方をしていて、中でも漢字に近いのでは、と。情報量も画数で言うと、10画とか15画分くらいしかないように思っていて(笑)。たとえば同じような漢字で部首が違う。それらを言語として認識する場合には不自然ではないけれど、造形として見た時にはそんなに変わらないじゃないですか。人の顏も一緒で、実はそんなに大きく変わらないものを、人間は顔だけを特別に言語化して認識しているんじゃないか、というのが裏テーマです、ってこんな話でいいですか?(笑)」

 

──
伊藤さんの中に常にある、人間の個性やエゴを否定したいという欲望ですね(笑)。
「いや、否定しているわけではないんだけど(笑)、そうバリエーションがあるわけではないと思っていて」
──
もちろん、そういうgroovisions的なニヒリズムを僕は理解しているつもりです(笑)。
「ニヒリズムと言ってもいいのかもしれないし、でも悲観的になるわけではなく、笑いを込めているところでまだ許されるのかな、と(笑)」

──
一方で、『groovisions 100 tools』の場合、紹介されている愛用品によって伊藤弘という人物のプロファイリングがなされるわけじゃないですか。つまり、伊藤さんのパーソナリティが中心にある本ですよね。制作の動機は何だったのでしょうか?
「扶桑社の人から『こういう本を出さないか』と打診があったので、『はい、出しましょう』と答えたんです(笑)。僕がハニカムのブログでギアのことを書いたりしているのを見てくださっていたんだと思うんですよ」