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THINK PIECE

TODD SNYDER

デザイナー本人が語る、 "TODD SNYDER"の真意。

11 11/4 UP

text:Jun Namekata

今季デビューを果たし、既に各方面で話題を集めている“トッド スナイダー”の2011秋冬コレクションが日本でも本格的にスタート。“アダム エ ロペ ビオトープ”の期間限定ポップアップショップのオープンに合わせて来日中のデザイナー本人にインタビューを敢行した。“ラルフ・ローレン”、“Jクルー”での成功を経た氏が、満を持してスタートさせた自身のブランドで表現するものとは? そのクリエイティビティの核心に迫る。

TODD SNYDER

アメリカ・アイオワ州生まれ。“ラルフ ローレン”を経て“J.クルー”のメンズヘッドデザイナーに就任。同ブランド初のテーラードの提案や“タイメックス”とのコラボなど、次々と革新的な提案を打ち出して、それまで低迷していたメンズラインの再生に貢献。2008年には同社初となるメンズストア「The Liquor Store」をニューヨークにオープンさせ最盛期を迎えるが、自身のブランド設立のために同年退職。今年2月、2011FWニューヨークコレクションでデビュー。
http://www.toddsnyder.com/

 

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まずは"トッド スナイダー"ブランドのスタート、そして"アダム エ ロペ ビオトープ"でのポップアップショップのオープン、おめでとうございます。実際に店頭に立たれてみて、日本での展開にどのような手応えを感じましたか?
「ありがとうございます。オープ前日の夜にはローンチパーティがあったのですが、そのときはスタッフのみなさんもとてもハッピーに楽しんでくれて、企画的もとても成功したエキサイティングなものになったと思います。初日の土曜日は私も店頭に立たせてもらったのですが、初日から今回のコレクションを象徴するグレーのダブルフェイスのトップコートや比較的高価なブラックのレザーアウターなどがソールドアウトになるなど、かなり良い反応を得られました。しかも私がいるということでショップに来てくれたお客様もたくさんいてくれて、とにかく本当に素晴らしい結果が得られたと思います」
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トラディショナルなもの、またクラシカルなものをインスピレーションソースにした"トッド スナイダー"のコレクションは、日本のカスタマー好みというか、現在の日本のメンズマーケットの潮流にとてもフィットしやすいものだと思います。成功することもある程度予想できたと思うのですが、そういった日本のマーケットを意識する部分はあったんですか?
「あると思います。私はファッションの仕事をするようになってから日本に来るようになって、そしてすぐに日本に恋に落ちてしまったんですが、特にファッションには強いインスピレーションを得ています。日本人の男性のミックスするセンスというかオリジナリティにはとても影響を受けているし、実際に日本人のミックスコーディネーションから学ぶことは多い。例えばハットやメガネ、時計、スカーフ、そういうアクセサリーの使い方がすごくクリエイティブですよね。そういう意味でも今回また日本に戻ってきて、日本人の方々が自分のコレクションを受け入れてくれたことは最大の賛辞だと受け止めています」
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改めて"トッド スナイダー"が表現するもの、そして記念すべきファーストコレクションの見所を教えてください。
「"トッド スナイダー"は、すべての男性がそのワードローブに持つべきエッセンシャルなものがベースになっています。Tシャツやトレンチコート、ジーンズ、チノやスーツ。そういったスタンダードなものやマスターピースと呼ばれるものを再解釈して、そこにファッション的な要素や新しいスタイルを加えていく。一見クラシックだけれど、それでいて誰も見たことのないアイデアが入ったアイテムを作るということがコンセプトです。そしてこのファーストコレクションは、そのことを象徴するものに仕上がったと思っています。例えば初日でソールドアウトになったダブルフェイスのコートはヴィンテージのオフィサージャケットにインスピレーションを得たものですが、イタリアの上質なファブリックを使うことで、ラグジュアリーかつ現代風に作り替えている。ミリタリーウエアやワークウエアの機能性にラグジュアリーな要素を取り入れつつ、両者のバランスを整えることに気を使ってデザインをしています」

 

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そういったコンセプトを掲げるブランドは"トッド スナイダー"以外にもあると思います。しかしその中でも突出したクオリティや存在感を感じさせるのですが、オリジナリティを出すために努力をしていることや、デザインをする上で特に意識していることはあるのでしょうか?
「他のデザイナーが何をやっているのかを心配したり気にしたりすることはありません。私にとって重要なキーはシンプルであること。クレイジーになりすぎたりエクストリームになりすぎたりせず、自然でいることがとても大切。とにかくシンプリシティにフォーカスするということは私のデザインにとってとても大事なことですね。それと私が自分で得意だと思っているのは、私自身が“トッド スナイダー”のカスタマーだとして、自分だったらこれをどういう風に着るだろうかと、着る人の立場に立ってデザインそのものやコレクションの構成を考えられるということ。私自身、アイオワという決してファッションが多いわけではない田舎に生まれて、そのあとNYに移り住み、またいろんな世界を旅するようになってエクストリームな世界も見てきましたが、逆にそういった極端な環境に身を置くことで、自分をどんなふうに見せたいか、また自分に何が求められているかという、よりリアルな観点からデザインできるようになったんです。例えば私がインスピレーションソースとして挙げているのは、ポール・ニューマンやスティーブ・マックイーン、ジェームス・ディーンといった古いハリウッドのムービースターが多いですが、ただ単純にその人物像を切り取るだけではなく、彼らが旅行するときはどういう服装をしているだろうかとか、ジェームス・ディーンがイタリアに行ったら何をどう着るだろうか、そういうシチュエーションを想像してデザインしていることが、自分のスタイルになっていると思います。つまり、私がやっているのは、ファッションのリ・インベント(=再発見、再生)ではなくて、リ・イグザム(=分析、解析)。ファッションのクラシックを見直すという作業をしている。そこが他のデザイナーが試みようとしていることと自分が違うところなのではないでしょうか」
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新しいファッションを創り出すというよりも、今時代に合ったものを作る。自己表現というよりも時代に合わせて編集し直しているという感覚に近いのでしょうか。
「それはニワトリが先か卵か先かということに似ていますね(笑)。どんなアイデアもそれが生まれた理由を見つけるのは簡単なことではないでしょう。既存のものに影響を受けているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。時代に合ったものを作ることが、最終的に新しいファッションを創り出すこととイコールになることもあるのだから。とにかくどういう風に古いものをエボリューションしていくか、ファッションというものの在り方をどう考え直していくかということが私にとっては大事なことなのです。年に何度かコレクションのリサーチにスリフトストアやヴィンテージストアに行きますが、そこで10年前からずっと見続けていたものが、ある日突然すごく新しく見える瞬間がある。今はワークウエアがトレンドだけれど、僕にすればもう見飽きた感はある。代わりに今ミリタリーウエアが新鮮だし、次のトレンドになりうるのではないかとも思っています。そういう新しさの変化のようなことは往々にして相対的に起こること。例えばベーシックなシャツひとつとってみても、プロポーションを変えたりディテールの大きさを変えたりすることで、驚くほど新しく生まれ変わったりもする。作る過程やそのものの歴史を考え直す作業をすることで、僕はクラシックなものをフレッシュなものに作り替えているんです」