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THINK PIECE

The Elder Statesman

ラグジュアリーという言葉が
マーケティングやブランディングに操られる時代は終わったと思う

11 10/19 UP

text:Jun Namekata

今、世界中で注目を集めている<The Elder Statesman>が、この秋遂に日本上陸を果たす。<The Elder Statesman>とは、ウエアからアクセサリーまでアイテムを展開するニットブランド。使うのは最上級のカシミアやコットン素材のみ。素材はすべて自分たちで選定をし、場合によっては糸を撚るところから始め、そしてその素材を最大限活かしたプロダクトだけを探求し作り続ける。しかしそれらは決して戦略的ではなく、デザイナーであるGREG CHAIT氏の、実にパーソナルな欲求が反映されたものなのだという。そこにはどんな思いが込められているのか。プローモーションのため、初来日を果たしたデザイナーに直接話をきいた。

GREG CHAIT

1978年カナダ生まれ、アメリカ育ち。世界を旅して回った後、バーやレストラン経営やオーストラリアのブランド「ツビ」のアメリカCEOを務める。その後、カシミアブランケットの魅力に取り憑かれ、現行ものやヴィンテージものなどを蒐集するうち、遂には自らデザイナーに。2007年より<The Elder Statesman>をスタート。
http://elder-statesman.com/

 

──
まずは<The Elder Statesman>がスタートしたきっかけから教えていただけますか。
「友人から贈られたのをきっかけにカシミアのブランケットに魅了され、自分でコレクションをし始めたんだけど、なかなか納得のいくものに出会えなかったので、自分で作るようになったんだ。その時は売るという事は全然考えていなくて、あくまで自分のために作っていただけ。でも、その事をマックスフィールド(世界的にファッションシーンを牽引するLAのセレクトショップ)がどこからか聞きつけたらしく『見せてくれ』と言ってきたんだ。そこからブランドとして立ち上げる事が決まった。そこから約1年をかけて協力してくれる人材や素材など必要な事をリサーチして<The Elder Statesman>が誕生したんだ」

──
一個人の趣味的なものが、急にマックスフィールドのような世界的セレクトショップで扱われるブランドになるというのは、とても大きな変化ですよね。ブランドのアイデンティティはどこにおいていたのですか?
「ニットを作る上で僕にとって一番大事な事は、糸からすべて自分たちで作るという事。素材自体はイタリアやコロンビアなど、いろいろな場所からベストなカシミアを集めているんだけど、それを糸にして、ニッティングしてというのはすべて自分たちでやっているんだ。一度も既存のニットやジャージを使った事はないし、それは今もこれからも変わらない。もちろん大変な事もあるけれど、それがブランドのポリシーであって、そうでないと意味がない。そういった素材作りには本当に全力を尽くしているよ。そしてそれをどういう風に編んだり、または織ったりすれば、どういった新しい素材を作る事ができるか。そこに情熱を燃やしているんだ」
──
手に取った瞬間に、本当にクオリティの高いものだという事が伝わってきます。まだ4年と若いブランドですが、まるでヘリテージブランドのアイテムのような存在感ですよね。
「重要なのは、<The Elder Statesman>は単なるファッションブランドではなく、ライフスタイルブランドであるという事。僕は年中旅をしているのだけど、そういった僕のライフスタイルがひとつひとつのアイテムに投影されていて、そしてそれを買ってくれるお客が、それをまた自分のライフスタイルに取り入れる。一過性のファッションではなく、そうやって、長く愛でてもらえる存在でいたいと思っているんだ」

 

──
コレクションに関してですが、常になにかテーマを設けて展開されているのですか?
「基本的にはそうだけど、明確なイメージやモチーフを投影しているというわけではない。例えば今年の春夏コレクションでいえば『Lights=光』がテーマ。子供の頃とても好きだった『アウトサイダー』という映画を元にコレクションを展開した事もある。でもそれらは最終的にコレクションの形として成立させる為にあるイメージ的なものであって、なにか具体的な要素として取り入れるのとはちょっと違う。例えば映画からインスピレーションを得るという事においても、そこからロジカルに何かを創り出すというよりは、あくまでフィーリングとしてテーマを設けているという感じかな」
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つまりテーマはあくまでニュアンスとしてでしかないと。
「これを説明するのはとても難しいんだ…。とにかくそういったテーマについてたくさんの事を調べたり、考えたりすることで、ある日突然イメージが湧いてくる。だから“この要素をこのディティールにという落とし込み方ではないということ。例えば、今後考えているテーマは『アーティスト』。中でもピカソやバスキアやクレメンテなどをフィーチャーしたいとは思っているのだけど、それは彼らの自体に想を得るというよりも、当時の彼らを囲む環境であったり、パーソナリティであったりとか、人生観であったり、そういう包括的に彼らをとりまく空気感のようなものをイメージしながらコレクションを作りたいと思っているよ」
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インスピレーションを単純に加工するのではなく、調べ挙げて、原形をとどめなくなるまで咀嚼して、消化してはきだすからこそ、ありきたりではないオリジナルのプロダクトが生まれるということですね。
「本当にパーソナルな解釈だから、みんなに広く理解してもらえるというものではないのかもしれないけれどね。やっぱり大事なのはフィーリングであって、出来上がったものはそのひとつの結果でしかない。例えばもうひとつ例を挙げると、昔『サーフィン』をテーマにしたコレクションもあったのだけど、サーフィンという言葉から誰もが連想するようなものでは全然なくて、サーフィンを暗喩するようなプレゼンテーションをしたんだ。でもそれが僕が想像するサーフィンであって、サーフィンという言葉から広がっていく世界を象徴しているものだった。それを受け取る人は、サーフィンとはまったく違うものを想像するかもしれない。でもそれでいいんだ。あくまでもコレクションのテーマは僕の解釈であって、それが投影されたものを別の人が着る事でまた新しい解釈が生まれていく。それぞれのアプローチで<The Elder Statesman>を受け止めてくれれば良いんだよ」