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ことダンス・ミュージックの世界では譜面も読めなければ楽器もできない、アカデミックな音楽的素養を持たないアーティストが、持ち前の感性と斬新なアイディアでヒット・ソングを生み出すことが多い。とりわけ瞬発力が必要とされる音楽においては、論理的な思考を持つ左脳派よりも、直感的な右脳派の音楽家の方が向いているのかもしれない。しかし時折、その右脳と左脳に橋がかけられたような、論理性と直感性を絶妙のバランスで併せ持つアーティストが現れる。
幼少の頃からクラシックの英才教育を受けつつ、ヒップホップやドラムンベースといったストリートミュージックに傾倒、音楽的二重生活を続けてきたベン・ウェストビーチもまた、そんな類い稀な才能に恵まれたアーティストの一人である。豊かな音楽教育の賜物であろう美しいコード進行とメロディに、生まれ持った甘美でソウルフルな歌声、そしてDJ的視点から作り出されるダンサブルなトラックは、ジャイルス・ピーターソンをはじめ、クロス・オーバーに絶大な支持を得ている。ジャズ、ヒップホップ、グライム、ドラムンベースなどの要素を盛り込んだカラフルなデビューアルバム「Welcome To The Best Years Of Your Life」から4年。その音楽性は更に磨き上げられ、今作「There's More To Life Than This」では"ハウス"にフォーカス、セクシーな大人のダンス・ミュージックを披露している。
数々のプロデューサー達とのコラボレーションによって生まれた今作。全曲通して、4つ打ちを基調としたハウス・マナーに忠実な内容だが、それぞれの楽曲においてベン・ウェストビーチと各プロデューサーの個性が異なる形で表現されており、月並みのヴォーカル・ハウスアルバムで終えることのないオリジナリティと、バラエティに富んだ作品となっている。中でも、ベルリンのディープ/テック・ハウスシーンの奇才、ヘンリク・シュワルツとの「Infelctions」、日本でも人気の高いラスマス・フェーバーとの「Summer's Loss」は特に秀逸。
前作のリリース後、音楽に幻滅してしまった時期もあったというが、長い充電期間、レーベル移籍を経て新たなステージへと歩み始めたベン・ウェストビーチ。この4年間での進歩と今後の更なる可能性を感じさせる今作は、その第一歩を飾るにふさわしい作品となっている。
text:honeyee.com
Ben Westbeech
「There's More To Life Than This」
2,310円[税込]
PCDT-44
Strictly Rhythm/P-Vine
発売中