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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

嵐のような人生を送った脚本家の半生。

16 7/22 UPDATE

ドラマ『ブレイキング・バッド』シリーズで、一躍世界に名を知られるようになったブライアン・クランストン。この映画では、赤狩りで虐げられ嵐のような人生を送った脚本家、トランボの半生を演じる。元々売れっ子脚本家だったトランボの、壮年期の大胆で食えない性格の魅力や、時代とともに少しずつ気性が荒くなり老いが目立ち始める、微妙な変化の所作は見事な演技力だ。

『ローマの休日』をご覧になったかたは多いだろう。この映画の脚本家クレジットは、イアン・マクレラン・ハンターとジョン・ディントンとなっている。だが、実際にこの脚本を書いたのは別人だ。その名はダルトン・トランボ。いわゆるハリウッドの赤狩りで、最初に目をつけられ迫害を受けた「ハリウッド10(テン)」の一人である。もはや表立って仕事のできなくなってしまったトランボの生活のため、理解ある友人だったハンターは名義貸しをした。それが皮肉なことに、アカデミー最優秀原案賞を受賞してしまうのだ。

本作は、赤狩りという狂気の熱に浮かされた人々の、おぞましさが猛威をふるう。映画館でトランボにコーヒーを浴びせかけて、人ごみに逃げ去る匿名の輩。犯人は真の共産主義嫌いなのだろうか。それよりも、世間が反共産主義運動で盛り上がっているから、感染してお祭り騒ぎのごとく、過激な嫌がらせ行為に出たとしか思えない。そして、映画内でこの反共産主義の感染力は、ジョン・ウェインのような知名度のある権威主義者こそ、もっとも強い感染源となって妄信を拡散していく。

名前を出して仕事のできなくなったトランボを、「匿名にすりゃわからんだろう」と気にもとめず雇う、フランク・キング(ジョン・グッドマン)というB級映画のプロデューサーも面白い。元々カタギではないらしく、今は赤狩りで職を失ったライターたちを買い叩いて、映画を粗製乱造していく人物だ。トランボが世間から酷い嫌がらせを受ける中で、主義思想など気にせず、仕事だけしていればいいという雇用主は有難いが、その人使いの荒さや生活の苦しさは、トランボの心身を荒廃させていく。

時代の趨勢とともに、反共産主義の意識が様変わりしていくのも興味深い。特に映画業界が誰かの息の根を止めるなら、息を吹き返す手助けをするのも、同じ映画業界の人間が、時代の流れを見ながら、自分の名声を利用して挑むのが面白い。

今年のアカデミー賞では『レヴェナント』のレオナルド・ディカプリオとかち合ってしまったため、ブライアン・クランストンは惜しくも主演男優賞はノミネートどまりだったが、この『ブレイキング・バッド』と正反対な、軟質でしたたかな芝居は素晴らしい。

text: Yaeko Mana

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』
監督:ジェイ・ローチ
製作:マイケル・ロンドン/ジャニス・ウィリアムズ/シバニ・ラワット/モニカ・レビンソン
脚本:ジョン・マクナマラ
原作:ブルース・クック
出演:ブライアン・クランストン/ダイアン・レイン/ヘレン・ミレン/マイケル・スタールバーグ/ルイス・C・K
配給:東北新社

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