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ベルファスト71

ベルファスト71

戦うことのやるせなさを噛みしめることになる、戦争スリラーの秀作。

15 7/30 UPDATE

1971年。両親はなく、幼い弟を育てるためにイギリス軍へ入った新兵ゲイリー(ジャック・オコンネル)。彼は北アイルランドへ派兵されることになった。最初についた任務は、地元の警察とともに、武器を隠し持っていると思われる民家の捜索。やはり実戦経験のないアーミテージ中尉は、住民を警戒させないため盾やヘルメットを着けないよう指示する。しかし、このパトロールが思いがけない惨事となっていく......。

本作は一夜のサスペンススリラーである。イギリスからひょっこりやってきた青年兵が、暴動に巻き込まれて一人だけ取り残されてしまい、敵か味方かわからない中を、ひたすら逃げ続けることになる。

北アイルランドはカトリックとプロテスタントで紛争が続き、それは狭い町であっても名前や居住地からどちらの出自かがわかるようになっている。だがゲイリーには、その違いがわからない。みんな普段着で、誰が銃を隠し持っているかなど見当もつかないし、学校に通っているような少年が不意に発砲したりする。実際、彼らも過激な闘争を終えれば、自宅に帰って「ママ、ただいま」と子どもの顔になるのだ。

ゲイリーはベルファストの町で住民から暴行の洗礼を受け、目の前で仲間のイギリス兵を射殺されながらも、なんとか彼一人は逃げおおせる。深夜になって、そっと路地に出たゲイリーに「はぐれたイギリス兵か。兵舎まで送ってやるよ」と、声をかける幼い少年が現れる。ゲイリーは疑心暗鬼しながらも少年についていくが、「ちょっと待ってな」とパブで取り残される。一体なんのためにここに連れてこられ、少年は何をしに行ったのか。ゲイリー同様、観客の我々も、もはや誰を信用していいのかわからない。

IRA(アイルランド共和軍)の中にも穏健派と過激派がいて、反目が続いている。そして、イギリス軍から工作員としてIRAに接触する者まで存在し、じつに入り組んだ紛争となっている。そんな複雑な思惑を持つ者たちにとっても、イギリス兵という珍客のゲイリーはとんだお荷物で、処理に困る存在なのである。

IRAの過激派で、ひたすらゲイリーの命を狙う者。逆にIRAを敵視し協力的な者。敵味方を超えて殺人自体に嫌悪を持つ者もいるし、人殺しはいやだが、身の安全のためにゲイリーと関わり合いになるのを恐れる者もいる。特にイギリス軍の工作員はIRAと関わり、ゲイリーの周囲で不気味な動きをする。

だが、彼らのそんな心理や思考は、ゲイリーには一切読めない。この映画の面白さは、敵味方の見当が皆目つかない、街中でのサバイバルというスリラーであると同時に、内紛の最前線に立つ者たちも、一枚岩ではない話の転がり方にある。彼らの足並みの揃わなさが、勝手にゲイリーを生かすか殺すかの判断を、コロコロと変えていくことになる。

そして、軽々しく扱われる命。あまりにたやすく生死の境目で戦うことが、逆に戦争の惨さを際立たせる。映画的な面白さと同時に、戦うことのやるせなさを噛みしめることになる、戦争スリラーの秀作だ。

text: Yaeko Mana

『ベルファスト71』
監督:ヤン・ドマジュ
製作総指揮:テッサ・ロス/ダニー・パーキンス/ヒューゴ・ヘッペル
製作:ロビン・グッチ
キャスト:ジャック・オコンネル/ポール・アンダーソン/リチャード・ドーマー/ショーン・ハリス/バリー・キーガン
配給:彩プロ

2015年8月1日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
http://www.71.ayapro.ne.jp/

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