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インヒアレント・ヴァイス

インヒアレント・ヴァイス

トマス・ピンチョン原作小説をポール・トーマス・アンダーソンが映像化。

15 4/21 UPDATE

トマス・ピンチョンの小説を、とにかくどれか一作でも読んだことのあるかたなら、あの世界の映像化がいかに難しいか、おわかりになるだろう。日本では『LAヴァイス』のタイトルで発行されたこの映画の原作小説は、ピンチョンの長編のなかでは比較的映像化がしやすいのではと言われてきたが、やはり、稀代の天才監督ポール・トーマス・アンダーソンだからこそ、ここまで概略を追える映画に仕上がったと思う。PTAもピンチョンの言葉や複雑な物語に敬意を払って、原作に忠実であろうとしている。でも、やはり相当手ごわい作品だ。

主役のヒッピー探偵ラリー・"ドック"・スポーテッロを演じるのはホアキン・フェニックス。不意に訪れた元カノのシャスタから、現在愛人をしている不動産王ミッキーの身に訪れた危機を、解決してほしいと頼まれる。どうやらミッキーの妻とその愛人の謀略により、ミッキーは精神病院に入れられようとしている模様。しかしその矢先にシャスタもミッキーも姿を消してしまう。

ドックは探るうちに自分も殺人犯に仕立てられそうになったりしつつ、「ゴールデン・ファング」という巨大な謎の組織に突き当たる。だが、この組織が茫洋としてなんとも全体像が見えないのだ。ヘロインを扱う麻薬組織であり、なぜかリハビリ施設や歯科医が絡んでいて、巨大な帆船が輸送に使われているらしい。そしてとにかく登場人物が多く、行きずりのキャラクターが重要なメッセージを残していったりする。おまけに、ドックはシャスタの依頼で動いているのに、死亡したことになっているがFBIのスパイとなっているミュージシャンを、家族のもとに返す役目も負ったりもする。

ロサンゼルスの風光明媚さと、なによりホアキンのおぼろな存在感が素晴らしい。ラリッてぼんやりしている心持だけでなく、巨大組織の陰謀にドック自身がどこまで足を突っ込んでしまったのかが、誰にもわからない不安の測れなさ。ドックやシャスタは危ないのかもしれないし、組織からはもう見逃されて無事なのかもしれない。その危ういものの限界が見えないから、ただラリッて事が訪れるのを待つしかない。今にもアリファナの煙とともに消えそうな、うっすら微笑むホアキンの佇まいには、そんな切ない寄る辺なさを見てしまう。

text: Yaeko Mana

『インヒアレント・ヴァイス』
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
原作:トマス・ピンチョン
キャスト:ホアキン・フェニックス/ジョシュ・ブローリン/オーウェン・ウィルソン/リース・ウィザースプーン/ベニチオ・デル・トロ
配給:ワーナー・ブラザース映画

ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田他全国公開中
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