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ソロモンの偽証

ソロモンの偽証

中学生の揺れる時期にしかない、純潔な強さに胸打たれる堂々たる傑作。

15 3/03 UPDATE

映画『ソロモンの偽証』は<前篇・事件><後篇・裁判>の2部構成となっており、トータル約4時間半の大作である。しかし、この長尺がまったく苦にならない密度をもった力作で、これまで成島出監督作品とは相性が悪かった人でも、印象が覆るほど異様な迫力で迫ってくる映画に仕上がっている。
 
本作は一人の少年が、クリスマスに校舎から転落死したことに始まる。深夜に亡くなった彼は自殺か、他殺か。そして教師のもとに犯人を名指しした怪文書が届く。イジメ、不登校の問題が人目に晒され、親やマスコミの介入でさらに事件は混迷を深める。

人間が一番、純粋に「人生とは何か」を考えるのが中学生の時期ではないだろうか。大人になってから考えるのは仕事やお金が絡んできて、純粋な人生の問題じゃなく「もっとモテて、ラクに生きる方法」など、欲にまみれた不純さが混じってくる。しかしこの映画の中学生たちは、真剣に正義や真実の追求を考え、自分自身に嘘をつけば、偽ってしまったことに苦しむ。

ニキビで悩んで情緒不安定になっていく樹理という少女も、二人暮らしの母親は「ニキビは青春のシンボルでしょ」と笑って取り合わないが、当人にとっては思いつめる十分な理由となるのが、痛いほどわかる。大人にとってニキビは他愛もない一過性のものとはいえ、その時期を生きる、まだ経験値の少ない少女にとっては、いつ果てるかわからぬ、精神的に重くのしかかる問題だ。

そして、それが同級生の不良少年たちからのいじめの原因となっていたら、生き死にすら関係してくるだろう。この映画の暴力描写は激しい。記号的に殴ったり、カットを割って暴行に見せる編集で済ませたりしない。本作は、本当に少年グループが学校鞄で樹理の頭をたわむ勢いで叩き、コンクリートに倒れた彼女の顔を踏みにじる。助けに入った太目な少女も、同じような目に遭い、見渡す限り誰もいない道に「助けて、誰か!」と、無力で切実な悲鳴が響き渡る。その暴力を屋上から目撃しつつ、怯えて逃げようとした優等生の主人公藤野涼子は、のちにクリスマスの日に死体となって発見される柏木に、「偽善者」と痛罵を受ける。涼子は言い返せず、ただ溢れた涙が流れる。彼女こそ、まさに誰よりも、自分の偽りを己で責めていたからだ。

このあと、彼女は自分自身の矛盾に苦しんで線路まで行き、自殺まで考えてしまう。十代のこういった自殺衝動は、改めて無垢で美しい動機だと思うし、けれど涼子も生きなければいけないと考え直すように、戻ってこなければいけない。そして涼子は後篇の、柏木の死を追求する学校裁判へと至っていく。嘘や偽善によって死を思うほど自責の念にかられ、けれどそこできびすを返して、「生きることをまっとうする」と決断すること。ただ惰性で生きるより、死から立ち戻る覚悟を決めた生への向かい方は、力強く凛々しい。中学生の揺れる時期にしかない、純潔な強さに胸打たれる堂々たる傑作である。

text: Yaeko Mana

『ソロモンの偽証』
監督:成島出
原作:宮部みゆき
脚本:真辺克彦
製作:大角正
キャスト:藤野涼子/板垣瑞生/石井杏奈/清水尋也/富田望生
配給:松竹

前篇・事件 2015年3月7日(土) 全国ロードショー
後篇・裁判 2015年4月11日(土) 全国ロードショー

http://solomon-movie.jp/

©「ソロモンの偽証」政策委員会