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いっとき日本でも公開作が相次いだタイ映画だが、最近は本数も少なくちょいと寂しいところ。しかし現在でも映画のレヴェルは相当に高く、新しい才能も続々と現れている。その証拠に映画祭では、娯楽作・芸術作のどちらもが盛況だったりするのだが。
といってもタイ映画といえばやはり「アクション映画」という印象が一般には強いのではないか。その嚆矢はやはり、2003年(日本では'04年)に登場した古式ムエタイ映画『マッハ!』だったろう。ここでトニー・ジャーによって披露された未知のハード・アクションはその後のマーシャル・アーツ映画に少なからず影響を与え、たとえば昨年公開されたもののなかで最高のアクション映画であるインドネシア発のシラット映画『ザ・レイド』なども、この『マッハ!』なしにはあり得たかどうか。
その『マッハ!』の監督プラッチャヤー・ピンゲーオと、アクション監督パンナー・リットグライに見いだされ、原石の状態から4年間磨きぬかれたのちに『チョコレート・ファイター』('08)でデビュー。テコンドーの素養を活かした捨て身の演技で、一躍ガーリー・アクションのニュー・ヒロインとなったのが"ジージャー"ことヤーニン・ウィサミタナンだ。
そんな彼女も28歳、『チョコレート・ファイター』続編の噂が定期的に浮かんでは消えるなか、何本かの青春アクション映画に主演しているが、その最新作がこの『チョコレート・ガール バッド・アス!』だ。今回ジージャーが扮するのは、ヤバい仕事も引き受けるバイク・メッセンジャー、ジャッカレン。コピーDVD屋に押されて苦戦中の正規DVD屋を営む叔父に引き取られ、暮らしている。だが預かった密輸品らしきブツを奪われたジャッカレンを、注文主である組織のボス・ピアックの刺客アマゾネス軍団が襲う。自転車をも武器に用いて軽々と撃退するジャッカレン! その「ブツ」はピアックの対立組織のボス、ゼンの手にあった。ふたつの組織の抗争にジャッカレンも巻き込まれ......。
なぁんてストーリーは本当のところどうでもいい。というか、実のところ脚本も演出も相当にヒドい(笑)。監督のペットターイ・ウォンカムラオは本作でもジャッカレンの叔父役を演じているコメディアンだが、『マッハ!』シリーズや『トム・ヤム・クン!』でタイ映画好きならおなじみの顔。コメディ演技だけでなく、'05年の東京国際映画祭で上映された『ミッドナイト、マイ・ラブ』では、タイ版『モナリザ』('86、ニール・ジョーダン監督)ともいうべき感涙モノの名演を見せてくれたものだが。
でも本作でのウォンカムラオは、いかにもタイの国民的スターらしさ丸出し。もっとも日本公開版=インターナショナル・ヴァージョンは「本国版のコメディ要素を間引きし、アクション要素を前面に出したもの」という触れ込みだけど、実際に観てみると「ホンマかいな?」と疑わざるをえないほどユル~い笑いが満載。ま、タイ製の大方のコメディはこういうタッチなので、広い目で楽しんじまうのが正解だ。なにはともあれ、パンナー・リットグライ振付によるアクロバティックなアクション、それに陽気で溌剌として愛くるしいジージャーの魅力は健在なんだから!
text: Milkman Saito
監督:ペットターイ・ウォンカムラオ
キャスト:ジージャー・ヤーニン・ウィサミタナン、ペットターイ・ウォンカムラオ、アコム・プリーダクン
英題:THIS GIRL IS BAD-ASS
製作年:2012年
製作国:タイ
上映時間:1時間36分
配給:ファインフィルムズ
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開中