12 8/20 UPDATE
正直、観ること自体気が進まなかったんだよね、この映画。
「マダガスカル」というシリーズ、前2作も観てはいるんだけれど、ドリームワークスのアニメーションらしく(笑)ケバくて悪趣味、ギャグもただウルサいばかりで泥臭くて笑えず、さらに選曲が子供客を劇場に連れてくる親世代におもねったようなポピュラー・ヒットばかりという見え透いた戦略的要素もまた鼻についたりして。
ところがどうだ、このパート3。やはりケバくて悪趣味で、やたらウルサいのは変わりないのだが、これが抜群に面白いのである。というか、ケバさもウルサさもさらに過剰になって、おまけに3D効果は絶大だし、あちこちで奇想ともいうべきアイディアが用意されているし、なんだかラストには感動さえ呼び起こしてくれちゃったりするのだ(ま、『カンフー・パンダ』シリーズなど、ドリームワークス・アニメの質の向上が著しいのも確かである)。
ニューヨーク動物園の人気者、ライオンのアレックス、シマウマのマーティ、キリンのメルマン、カバのグロリア、そしてペンギンズらは自由を求めてアフリカの大地を目指す。そしてたどり着いたのはアフリカはアフリカでもマダガスカル島だったが......というのが「1」。んで「2」ではNYへ帰ろうとするが、不時着したのはアフリカ大陸。本作「3」はそこから始まる。
もはやホームシックは募りに募り、荒涼たる大地で老いさらばえていく自分たちのシュールな幻影を見るまでになる動物たち。懐かしきNY動物園へ帰還する頼りの手段はペンギンズ(トラブルメイカーではあるものの、知的発明部分を一手に受け持つ)の手作り飛行機だけだ。でもペンギンズはその飛行機でモンテカルロのカジノへ飛び立ったまま戻ってこない。業を煮やした動物たちは海を越えて追っていく。
カジノでの大騒動から、動物の首を壁飾りにしてコレクションするのに執念を燃やす動物公安局のデュボワ女警部のド迫力な猛追を逃れ、土壇場で出会ったのがサーカス列車。それはロシア生まれのトラ団長率いる、動物による動物だけのくたびれ果てたサーカス団だった。切羽詰まったアレックスは「僕たちもサーカスの動物だ」と嘘をついてなんとか仲間入り。ダルダルな演目を刷新し、一大スペクタクルへと改革して、NY凱旋興業へと漕ぎつくべく団員を焚きつける。しかし団長のトラは火の輪くぐりのスゴ技(いやぁもう、ありえない凄さ!)を持ちながら、ある日の失敗を境に自信喪失したままだった......。
シルク・ドゥ・ソレイユも真っ青のド派手なサーカスは、'70~'80年代の先駆的CGアーティスト、ロバート・エイブルじみた極彩色テイスト。最後までどこまでも追ってくる偏執狂的なデュボワ警部は、まるでナチ女収容所モノの女看守・イルザみたいにえげつない。ロシア人、いやロシア虎への皮肉もかなり辛辣だし、サーカスのロリータ熊(このキャラだけ人語を喋らない)とキツネザルのキング・ジュリアンとの「愛」も相当ビザール。要するに悪趣味そのものなのだが、あっち側にずどーんと突き抜けてしまったような爽快感がある。
監督は前2作と同じなのにこの変貌はいったい?......とエンド・クレジットを見るとなんと脚本にノア・ボーンバックの名が! ボーンバックといえばウェス・アンダースンの盟友であり、『ライフ・アクアティック』や『ファンタスティック・Mr.FOX』の脚本を共作したり、ウェスのプロデュースの『イカとクジラ』などの監督でもある人物だ。(いい意味で)のらりくらりした彼の作風と本作とはかなり異なるが、「自分の居場所探し」というテーマに着地するのはいかにもボーンバックらしくもあって、そうした才能の投入が本作を未知の領域へと導いたのかもしれないな。
text: Milkman Saito
監督:エリック・ダーネル、コンラッド・ヴァーノン
脚本:ノア・バームバック
製作:ミレイユ・ソリア、マーク・スウィフト
出演:ベン・スティラー、クリス・ロック、デイヴィッド・シュワイマー、ジェイダ・ピンケット=スミス、サシャ・バロン・コーエン、セドリック・ジ・エンターテイナー
上映時間:93分
製作年:2012年
製作国:アメリカ
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
新宿ピカデリーほか全国にて公開中