12 2/27 UPDATE
最近、20歳くらい年下のヒトと話していて少なからず驚いた。「石井聰亙監督、っていうとなんだか静かな映画を撮る人ですよね」
......うむむむむ。確かに間違っちゃいない。『水の中の八月』('95)や『ユメノ銀河』('97)で初めて彼を知ったのなら、そう認識したってなんの不思議もないよな。
でも40歳前後から上の世代ならずばり、「石井聰亙=パンク」で決まりだ。70年代後半に勢いづいた8mm自主映画の旗手として頭角を現し、ブローアップして劇場公開された『狂い咲きサンダーロード』('80)、「これは暴動の映画ではない、映画の暴動だ」なる惹句がドンピシャな『爆裂都市 BURST CITY』('82)等でメジャー・シーンを攪乱。小林よしのり脚本のブラック・ホーム・コメディ『逆噴射家族』('84)あたりまでの、他のメディアやジャンルまで巻き込んでの爆走ぶりは他を圧していた。
いわば「ふたつの顔(監督自身は過去作をまとめたDVD BOXで「パンク・イヤーズ」と「サイケデリック・イヤーズ」と呼んでいる)を持つ石井聰亙が、なんとこのたび「石井岳龍」と改名した。なんで今更?とまずは思うが、本作を観終われば、なるほど「ふたつの顔」が融合したような、新しい段階に彼は踏み出したのだなとなんとなく納得できること確実である。
まず、石井作品の中ではケタ違いに台詞が多い。そしてオカシい。とにかく笑える。共通項があるのは『逆噴射家族』だろうが、約30年前のあれに比べ遥かに洗練されている。作品の流れはもちろん、群像劇を成す俳優たちがそろって素晴らしい演技なのだ。原作はいまや売れっ子・前田司郎の同名戯曲。だからといって舞台臭さは感じない。映画らしい、自然な演技。「"自然な演技"という名の、型にはまった演技」ではなく、本当に生きて、呼吸をしている演技。いつから石井聰亙、いや岳龍はこんな見事な演出が実現できるようになったのか。
ただ、物語はそんな活き活きとした人物たちが、とつぜん、つぎつぎと、理由も判らぬまま死んでいく、ってものだ。ある日の昼下がり、とある郊外の大学キャンパスに、たまたま居合わせた人々。三角関係の決着をつけるべく学内カフェで話し合いの場を持った男1×女2。そこのウェイター。結婚披露宴でのお祝いダンスを練習する面々。鉄道事故から脱出してきた男ふたり。有名アイドルやってる学生。併設された大学病院の、女医を訪ねてやってきた腹違いの兄。その女医に片思いしてるシンガーソングライターな医者。病室から抜け出てきた少女......みんなバタバタと、その場で息絶えていく。未知のウィルスか、はたまた大学病院の地下で行われていると都市伝説になっている秘密実験が漏れ出たのか。死の理由が明らかになるわけでもない。
ここ最近、タル・ベーラの『ニーチェの馬』だの、ラース・フォン・トリアーの『メランコリア』だの「終末映画」が相次いでいるが、これもその一本だ。しかしこれは、タルのキリスト教的恐怖の中の死滅とも、フォン・トリアーの無神論的絶対的虚無の中の自閉的消滅とも似ているようで似ていない。「何かしても、何もしなくっても死ぬんじゃないの?」と劇中にもあるが、そのとおり。実はこの映画の「死」には自然死でないものもあるけれど、それも含め、結局「死」は生けるものすべてに、善も悪もなく、ひとしなみに、暴力的に訪れるのだ。その摂理は、『水の中の八月』にも忍ばされた「アートマン=ブラフマン」=「凡我一如」にも通じるだろう。理不尽ではあるけれど、喜ばしきものでもあるんだな。なんせ田渕ひさ子(元ナンバーガール)の轟音ギターと、爆笑哄笑のうちに世界は終わっちまうんだからね(ま、死にゆく本人たちにしてみればそれどころじゃないかもだが)。
ちなみに本作、石井監督が教授を務める神戸芸術工科大学のキャンパス内でほぼ撮られている。すべての登場人物が同等の比重にあるキャストもプロ・アマ混成。染谷将太や渋川清彦、芹澤興人らプロフェッショナルの中に、監督の教え子二人(つまり素人)まで混じっている。村上淳と絶妙のじゃれ合いを見せる"さかな博士"と、女性ふたりをイラつかせながらも実は色男(?)な優柔不断オトコ、かなぁり強烈な印象を残すキャラクターがその二人なんだから恐れ入ります。同じシロウト演技者を演出するにも、『爆裂都市』の時代とはぜんぜん別次元なのだ。石井岳龍、いったいいつの間にこんな演技メソッドを編み出したんだろう!?
text: Milkman Saito
原題: 生きてるものはいないのか
監督: 石井岳龍
原作・脚本: 前田司郎
出演: 染谷将太、渋川清彦、村上淳、他
制作国: 日本
制作年: 2011
上映時間: 113分
協力: 神戸芸術工科大学
制作: ドラゴンマウンテン
配給: ファントム・フィルム
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