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『ウルトラミラクルラブストーリー』

『ウルトラミラクルラブストーリー』

恋を知らない変わり者の青年が起こす
奇想天外な超奇跡的恋物語。

09 6/03 UPDATE

2009年日本映画・暫定No.1。まあ、好き嫌いはかなぁり分かれるだろうが、これを凌ぐものが現れるとしたら大したもの。

タイトルからしてフザけている。「超奇跡的な恋物語」(笑)。まぁ実際そういう話なんだけど、ロマンティックな映画だと考えちゃぁいけません。......いや、確かにロマンティックなハナシではあるのだが(笑)見た目はちっともそうではない。極めて挑戦的な、観客の脳ミソをぐりぐり直接刺激するような映画なのだ。

冒頭、ちょっとずつ狂ったいくつもの目覚まし時計が映し出される。朝の田舎の、農村の小さな家。がばっと起きた主人公の陽人(松山ケンイチ。ちょいと奇跡的に凄い)は、起き上がっていきなりシーツを羽織り、野良犬追いかけて外を走り回る。やることなすこと唐突で想像がつかない。突然暴れたり歌い出したり、行動に脈絡というものがない。陽人自ら言うように「脳みその配線が人と違う」のだ。病理的にいえばADHD......注意欠陥・多動性障害らしいが、この映画では決してネガティヴなものとして扱われてはいないし、町びとも彼を容認しているのを見て、我々はふと感じるのだ。

社会生活なんてものを一応キチンと行っている、ふうなフリしてる我々なんて、本来なら解き放つべき生のエネルギーをただ抑圧してるだけなんじゃないか? ちょいと狂った時計のほうが生物的にはマトモなんじゃないか?と。

それはともかく、彼の部屋にセットしてあったラジカセのテープが鳴り出す。老人の声のようだが、何を喋っているのかまったく判らない。すぐあとに幼稚園児の漫才シーンがあるけれど、正直、皆目判らない。なんかガキがしゃべくるには毒ありすぎるネタだってことくらいしか判読できない。字幕もいっさい出ないからどうしようかと思ってしまう(笑)。

実はこの映画の舞台は青森。話されているのは全部津軽弁なのだ。県外人には最初20分ほどは全然判らないが、ま、日本語にゃ違いないし、そのうちおぼろに判ってくる。挑戦的だ。グローバリズムに流れない。そもそも津軽弁、語感が音楽的で心地いい。つまりは「考えるな。感じるんだ」ってことですね、ブルース・リーじゃないけれど。この「反・脳髄主義」は仰天のラストまで徹底している。

そんな田舎町の、風に揺れる稲の青葉の中から登場するのが、ブルーの帽子に黄色いブラウス、トランク引きずった町子(麻生久美子)。東京からはるばるやってきた幼稚園の先生だ。実は彼女、彼氏がトラックに轢かれて亡くなっちゃった。そのときに首がすっ飛んだまま(これもまた象徴的)まだ見つかっていない。彼氏のことを忘れきれない彼女は、そのありかを示してもらおうと、この町に住むカミサマと呼ばれる女占い師に会うためにやってきたのだ。

この町子先生に、子供みたいな陽人はひとめ惚れ。周りのことなどまったく考えない、まさしく生きてるエネルギーの塊のような彼だから、とにかく積極的。「両思いになりたい」、その一念で幼稚園に日参する(傍若無人な行動をとる陽人のうしろで平然とハナクソをほじる子供が凄い)。

最初は迷惑だなぁ、としか思えない町子先生だが、なんだかちょっとずつ陽人のことが気になってくる。あれ? 最初は全然会話も成り立たなかったのに、だんだん話せるようになってきてるかも。振る舞いもいささか礼儀正しくなってきたような感じさえする。......実はこれにはムチャクチャなワケがあるのだけれど、いちおう書かないでおきましょう。尋常ではないエネルギーの発散が常態である陽人にとっては、ふつう感情の高揚を伴う恋愛という行為も、エネルギーを低下させないと成り立たないものなのである!

ほとんど奇想だ。どうすればこんなハナシ考えつくんだ。映画はこの先もますますワイルドサイドを走っていく。

監督の横浜聡子は、自主映画として撮りながらも一般公開された『ジャーマン+雨』で強烈すぎる個性をぶちかましてくれた超弩級の新鋭。傍若無人で性格最悪、ほとんど精神年齢小学生な16歳女子"ゴリラーマン"の、なにものからも自由な世界は、現代日本に野生の王国を現出させたに等しい奇妙な開放感があった。

それが評価されての商業映画デビューなのは確かだが、大きな製作費で、しかも有名俳優を使って撮るとなると、誰しもちょっとばかし柔らかくなるもの(笑)。でも彼女の場合まったく変わらない。怒る奴は怒れとばかりに自らのホームタウン青森で、前作以上に攻撃的で奔放で奇想天外でバーバリスティックでポジティヴな活力に満ち満ちた映画を作っちゃったのだから、その根性の図太さには呆れ返るより仕方ない。これでいいのだ万国のクリエイターよ。なにものも恐れるに足らず、なのだ!

Text:Milkman Saito

『ウルトラミラクルラブストーリー』

監督・脚本:横浜聡子
出演:松山ケンイチ、麻生久美子、ノゾエ征爾、ARATA、藤田弓子、原田芳雄、渡辺美佐子
製作国:2009年日本映画
上映時間:2時間
配給:リトルモア

http://www.umls.jp/

6月6日(土)よりユーロスペース、シネカノン有楽町2丁目、シネマート新宿ほかにて全国順次ロードショー!

©2009「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会