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『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』

『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』

自由奔放な犬との生活を通じて
家族の存在意義を問う感動作

09 4/06 UPDATE

好き嫌いはアカンと判っちゃいるけれど、どうもやっぱり難病モノとガキ恋愛モノとTVドラマの延長戦モノと、それから犬モノ・ペットモノには足が遠のく。ま、結局はたいがい観るんだけども......というのは例外、というのはいつでもあるからであって、それを観逃すと悔いが残るからだが、まぁ、本作もそんな勘弁してもらいたい類いの一本ではあったワケである。

しかしスタッフの顔ぶれにかなぁりクセがある。監督は『プラダを着た悪魔』('06)のデイヴィッド・フランケル、脚本にはエルモア・レナード本の脚色をスマートにこなし、快作ミステリー『ルックアウト/見張り』('07)の監督脚本でも手腕を発揮したスコット・フランク。それに加えて、傑作セックス・コメディ『熟れた果実』('97、あのクリスティーナ・リッチの出世作だ)や『ハッピー・エンディング』('05)の監督脚本を手掛けたドン・ルースの強力タッグ。撮影にはドイツ出身でマーティン・スコセーシ映画の名キャメラマン、ミヒャエル・バルハウスを父に持つフロリアン・バルハウス......と、どうにも強者ぞろいなのだ。いってみればアメリカ文化を斜に見てるような奴らばかり揃ってるのですね。しかも主演はウェス・アンダースンの盟友オーウェン・ウィルスンだから、よく日本映画にあるような、ただ泣かせに走る映画ではおそらくないだろうと思ってはいたわけである。そもそもアメリカ人と犬との付き合いは、農耕民族である日本人のそれよりも密接、いや存在意義に関わることもあるほど深いものだから。

でもね、いきなりファースト・ショットが麦畑の中を仔犬を連れて歩く少年の姿。いかにもすぎるノーマン・ロックウェル的原風景。あはは、である。あーあと思う。「子供時代に犬と暮らすことには大きな意味がある」云々と重なるナレーションに、やっぱそうなりますかと消沈するわけ。

しかし! 「でもこの少年は僕ではない」と即座に闖入するのが、暴走する犬に翻弄されるオーウェン(笑)。これ以後、そういうボケをこの作品はかましまくる。ま、世の犬好きを満足たらしめる感動的なシーンはいくつもあるのだが、いよいよ最後の局面に至るまですべからくオチをつけまくってみせるのがイイ。

そもそもである。原題が「マーリーとぼく」だからといって、この映画、犬が中心ってワケでもない。むしろ'91年湾岸戦争以後のアメリカの家族史(ただかなりの知識人階級だが)を犬との生活を通じて描こうとする作品なのだ。

結婚はしたもののまだ自由なままでいたいと思う新聞記者のオーウェンが、子供を欲しがる新妻(ジェニファー・アニストン)のため、プレイボーイの同僚に勧められるまま子供の代替物として飼いはじめたのがラブラドールのマーリー(由来はカーラジオで流れたレゲエの神様から!)。それも格安の"見切り品わんこ=クリアランス・パピー"なのである。正直、破壊魔的パワーと旺盛すぎる食欲、醜く太った女性トレーナー(コレが『白いドレスの女』('81)のファム・ファタル、キャスリーン・ターナーの成れの果てとは信じたくない...)にまでマウンティングする性欲の大きさはバカっぽい。でもこれくらいの馬鹿ペットは珍しくもないわけで、そんなマーリーをおおらかに笑い飛ばせる夫婦は彼の中にに自由主義の精神を見ているのだ。

そんなオーウェンは、時事ジャーナリスト志望のクセにマーリーのバカさをネタにしたコラムで才能を開花させ(とりあえずオーウェンと役者名で書いているが、演じる役は原作者自身である)、ようやく子供を作る決心を固める。イヌの飼育が本当に我が子をつくる準備を整えるまでの予行練習だったというのがアメリカ人らしいが(笑)、うっかり三人も立て続けに作っちゃうのがどうしようもないというかなんというか。もともとオーウェンよりも有名な女流コラムニストであった妻は育児でストレス募りまくり。あんなにためらっていたのに、結局"家族"を作ってしまった夫の憂鬱も尋常ではない(決して意に沿ったものというわけではない日常を、断片的に超高速で羅列していくシークェンスは斬新で素晴らしく、また幼児で溢れる我が家を玄関先でぼーっと見つめるショットには、家族持ちなら身につまされるものがある)。

育児にてんやわんやする間、あんなに可愛がっていた犬はちょっと隅に追いやられる。やがて子供は成長するが、犬は知らぬうちに老いている。やがて「犬モノ」に付きものの別れのシーンがひたひたと観客に迫りくるのだが(僕自身は愛猫家だけど、犬であったってこういうのはモロに辛いのよ)、それでもギリギリまでスカしまくる作り手のクールさがいい。そしていよいよ、というとき......冒頭で軽くいなした「子供時代に犬と暮らすことには大きな意味がある」という言葉の意味が異なるかたちで甦ってくるのだ。

巧い。斜に構えて語りつつもやがて王道へと還る......というより、王道に繋げる、というべきか。自分ではない誰かへと綿々と受け渡されていく、悠久の精神的サイクルをイヌを通じて感じるのだ。家族という単位に結果的に全肯定的ではあるけれど、とても前向きな、いい意味で素晴らしく「アメリカ的」な作品である。

Text:Milkman Saito

『マーリー 世界一のおバカな犬が教えてくれたこと』

監督:デビッド・フランケル
脚本:スコット・フランク、ドン・ルース
出演:オーウェン・ウィルソン、ジェニファー・アニストン、エリック・デイン、アラン・アーキン、キャスリーン・ターナー
原題:Marley & Me
製作国:2008年アメリカ映画
上映時間:1時間56分
配給:20世紀フォックス

2009年3月27日(金)TOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー

http://movies.foxjapan.com/marley/

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