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なるほど、奥さんが軍人で、旦那が“銃後の夫”になる、って家庭もあり得るんだな。シカゴのホームセンターで働いている主人公ジョン・キューザックの妻は現在イラクに出征中。留守番電話の声だけでしか彼女は出てこないけど、12歳と8歳の幼い娘に残した伝言は、まるで出張中のビジネスマンだ。
しかし出張先は戦地である。彼女は死ぬ。
家庭の躾がやたら厳しいのでも察せられるけれど、キューザックとて元軍人(えらい太ってるが、おそらくわざとそうしたのだろう)、しかも中西部の保守層バリバリだ。なんぞや理由があって軍を追い出されたらしくて、それが今も心の傷になっているが「愛国心」には今もなお……というか、だからこそ忠誠だ。
でも妻が死んだことで彼は完全にパニクる。どうしていいか判らなくなり、事実を娘たちに告げられぬまま、娘が思いつきで口にしたフロリダの遊園地まで衝動的に長旅を続けることになるのだ。作品はその道程を実に淡々と描いていくのだけれど、だからこそ三者三様の心の揺れ(さすがに長女は何があったのか、おぼろげながら察しはつくよな)やじわじわ身に沁みてくるストレスなどが、観るものにも痛いほど突き刺さる。
あ、三人だけじゃない。旅の途中で久しぶりに会うキューザックの弟、ってのがいる。彼は32歳の大学院生で親元にまだ同居。兄とは正反対の思想で、ブッシュを「あんたらの大統領」と呼び放つ。もちろん弟の生き方を否定する兄ではあるが、妻の死を前にして、自分の信じてきた国家や正義に疑問を持ちはじめた兄はよりジレンマを深めていくのだ。
そういえば本作の音楽担当はなんとクリント・イーストウッド。自分の映画に作曲するのはいつものことだが、他人の映画に音楽のみで関わるのははじめてだ。なんでもキューザックが直談判して参加してもらったらしいけれど、それが語りすぎない画面を、いい頃合いに補足していて素晴らしい。まさしく、あの「硫黄島二部作」の延長にある感触といえばいいか。ミュージシャンとして活躍する息子カイル・イーストウッドがやはり編曲していることもあるが、いやいやクリントは、脚本があれと呼応しているのに納得して参加したのがよく判る響きがするのだ。“愛国者”さえ戸惑わざるをえない今のアメリカ、いったいどうなってしまったのだろう、という……。
原題は“Grace is Gone”。グレイスとは亡くなった妻の名だが、もちろんダブルミーニング。すなわち優雅、優美、神の恩恵……それらがもはや去ってしまった時代なのだ。
Text:Milkman Saito
『さよなら。いつかわかること』
監督・脚本:ジェームズ・C・ストラウス
出演:ジョン・キューザック、シェラン・オキーフ、グレイシー・ベトナルジク、アレッサンドロ・二ヴォラ
音楽:クリント・イーストウッド
配給:ザナドゥー
2007/アメリカ
上映時間:85分
原題:Grace is Gone
http://www.sayonara-itsuka.com/
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