honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

キャッツ ~ポッサムおじさんの実用猫百科~

キャッツ ~ポッサムおじさんの実用猫百科~

ユーモラスな猫の表情に、もらった人は思わず笑顔になる。

15 11/25 UPDATE

日本では劇団四季により1983年からロングラン公演が続いているミュージカル『キャッツ』の、原作と言っていいのか、アイデアの出発点となった詩が、T. S. エリオットの作であるということに意味を感じる(感じている)人が、日本にどれぐらいいるのだろうか。僕は舞台の『キャッツ』を、ニューヨークでも日本でも、いちども観たことはない。歌はぜんぶ知っている――が、僕はミュージカルのいい観客ではないから―― 僕にとっての『キャッツ』とは、連作詩群としてのそれをまず指す。

「荒地(The Wast Land)」の エリオット、20世紀の英文学を代表する詩人のひとりであり、ノーベル文学賞受賞者でもある彼が、1930年代に年若い子供たちに向けて書いた手紙のなかに記されていた詩が、これだった。このときエリオットは、「ポッサムおじさん(Old Possum)」と名乗った。ポッサムとは「Opossum(ふくろねずみ)」を言い換えたエリオットの愛称(名付けたのはエズラ・パウンド)だったのだという。そんな本書だから、これまでにいくつかの邦訳絵本が出ているのだが、本書の副題がもっとも正確だ。本書は原題を「Old Possum's Book of Practical Cats」と言う。初版の発行は1939年だった。

そして、本書の決めどころ、「だから買うしかない」ポイントは、「挿絵がエドワード・ゴーリーだ」というところだ。オリジナル・ストーリーの絵本ではないのに、ゴーリーが挿絵だけを担当することはめずらしい。しかも、丸っこくユーモラスな猫の表情に「これがゴーリー?」と思う人もいるかもしれない。しかし、これもゴーリーなのだ、ということが、じわじわとわかってくる。猫への愛情はもちろん、エリオットの詩への深い敬意が、彼の普段のタッチを「無二の」と言っていい、この「キャッツ・ヴァージョン」へと引き寄せている。そんなわけで、なんとも心躍る一冊となっていること、請け合いだ。その精髄が「猫の名付け」のかわいらしさと、「マキャヴィティ~ミステリー・キャット」の躍動だろうか。翻訳も的確で、いいリズム感だ。装丁、造本もきちんとしていて好感が持てる。

といったところで、本書はまず、だれかにプレゼントする際に、うってつけの一冊となるだろう。クリスマスや誕生日に愛する人へ、大人が年若い子供に、あるいは、自分自身に。そしてもちろん、ミュージカル『キャッツ』のファンにも......よほどの猫ぎらいの人でもないかぎりは、もらった人は思わず笑顔になる、そんな絵本が本書なのではないか。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「キャッツ ~ポッサムおじさんの実用猫百科~」
エドワード・ゴーリー 著 
T. S. エリオット 著 
小山太一・訳
(河出書房新社)
1,300円[税抜]