15 7/06 UPDATE
タイトルどおり、アンディ・ウォーホルがなんらかの形で「仕事を請け負った」レコード・ジャケットを、ほぼ完璧にとらえきった画集がこれだ。縦横ともに30cmを超えるサイズで、「ほぼ実寸で」アルバム・カヴァーが収録されている。260ページ以上のページ数と、ハードカヴァーの装丁と相俟って、これぞコーヒーテーブル・ブック、といった趣きの一冊だ。
ウォーホルの「ジャケット仕事」のなかで有名なものについては、ハニカム読者だったら先刻ご承知、一般常識の範疇だろう。たとえば、このほどデラックス・エディションが発売され、(彼らにしてはめずらしくも)「全曲再現ツアー」がおこなわれた、ローリング・ストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』(71年)。あるいは、本書の表紙モチーフでもある『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』(67年)。ここらへんがウォーホルの代表作だとしたら、『A Program of Mexican Music』(49年)はどうだろうか? 民俗学系と言っていい、古いメキシコ音楽を収録したこのアルバムのカヴァーに、若き日のウォーホルはイラストを提供していた。ここを出発点として、まずはイラストレーターとして、彼は数多くの「ジャケット仕事」をこなした。50年代にはクラシック音楽からジャズへとさらに仕事の幅は広がって、カウント・ベイシーのセルフ・タイトルド・アルバム(56年)で、ついに(初めて)ウォーホルは「セレブリティのポートレート」を描くことになる。そして同年、あのリード・マイルスがデザインするブルーノート作品にもイラストが起用される!
――どうだろうか、この流れ。僕にはまるでこれが、ウォーホルの青春譜のように見えてくるのだが。そしてのちに、(そう、だれもがよく知るように)ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビューをバックアップして、そのアルバム・ジャケットのアートワークのなかに、大きく自らの名を記す「アーティスト」として彼は天下にその存在を知らしめることにもなる。アルバム・ジャケットに「名を記した」アーティストはウォーホルが初ではなかったかもしれない。しかしこれは、彼にとっては、とても大きな意味を持っていただろうことが、本書に掲載されたカヴァーをクロノジカルに見ていくことでわかる。レコード・ジャケットにかんしては、無記名性の高いイラストレーションから、つまりはまったくの「雇われ仕事」として始まったのが、彼のキャリアだった。それが『&ニコ』で、完全にひっくり返ることになる(だから逆に、これ以降のヴェルヴェッツ・ジャケをウォーホル自らが手掛けることはなかった)。無名の若者だったウォーホルが「第一線級のアーティスト」へと変容していったその過程を、わかりやすく追っていくことができるのが、彼の「ジャケット仕事」の特徴のひとつでもあるのだ。
著者はウォーホルのプリンテッド・マターの蒐集家として著名な人物。これまでにポスターや雑誌でのウォーホルの仕事について類書を発表している。また本書は、08年に刊行された同趣旨の一冊『Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987- Catalog Raisonne』の増補版として設計されている。そして今回こそはウォーホルが手掛けた「すべて」のレコード・ジャケットを収録し、解説する――ことが目論まれていたようなのだが、それについては「まだ完全ではない」というコレクターからの批判も、ネット上ではあるようだ(もっとも、僕にはこれはこれで、ほとんど完全であるように思えるのだが)。本書における収録作品数は50点以上。レコード・ファンなら言わずもがな、あるいは、なんらかの形でモノ作りにかかわっている人には、見逃すことはできない一冊が本書なのではないだろうか。
text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
「Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers」
Paul Marechal 著
(Prestel Pub)洋書