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トーテムポールの世界

トーテムポールの世界

北アメリカ北西沿岸先住民の彫刻

15 6/15 UPDATE

とても貴重な情報および知見が詰まった一冊だ。これまで「日本語ではほとんど資料がない」という惹句は本当だろう。トーテムポールについて、ほんのすこしでも興味がある人なら手にとったほうがいい。民族学的、人類学的興味はもちろん、アート的な興味だって満たしてくれるはずだ。写真は全270点。カラー・ページが多くない(16ページ)というのが残念なのだが、それをおぎなって余りあるのが、著者の35年(!)にわたるフィールド・ワークの集成ともいえる「トーテムポール学」の数々だ。その歴史、分類、彫像に込められた意味の数々、そしてなによりも、その文化を連綿と引き継いできた人々の社会のありかたまで......たっぷりと知ることができるのが本書だ。

著者はカナダに住み、ブリティッシュ・コロンビア大学で教鞭をとっていたこともあるそうだ。だから本書は、北米先住民のなかでも、北西沿岸部の部族の文化がその研究対象となっている。白人との接触により、その文化がいかに(一度は)崩壊していったかも記されている。そして、70年代からのトーテムポール復活について――あるいはまた、ハイダ族の土地だったブリティッシュ・コロンビアの美しき群島「ハイダ・グワイ」、および、スカグウェイなど、雄大かつ過酷な大自然が、いかにこの文化体系の根幹にかかわっていたかについても、立体的に語り起こされていく。

アメリカ先住民の美術や意匠は日本でも人気が高い。だからこそ、「そのトーテムポールの意味するところはなになのか」この際、本書で学んでおくべきだろう。人は自分が着ているTシャツのプリントの柄に責任を持たなければならない。胸や背の絵柄が、あるいはその外国語が「なにを意味しているのか」知らないままにそれを身にまとっているということは、とてつもなく田舎くさく、恥ずかしく、場合によっては公衆道徳すら害することなのだ――というのは、ここ日本でもかなり一般化してきたモラルなのだと僕は信じる。であるならばそれは、ネイティヴ・アートと総称される領域でも変わらないはずだ。だからもしあなたが「意味わかってない奴」に差をつけたいのだったら、トーテムポールにかんしてならば、本書はきっと最高の参考書となってくれること、請け合いだ。

text: Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

「トーテムポールの世界 北アメリカ北西沿岸先住民の彫刻」
細井忠俊・著
(彩流社)
¥3,500(+tax)