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これが初なのだ。信じられないことに、偉大なる、あの、ロッキン・ジェリービーン画伯の「初の」画集が本書なのである。構想20年という噂も聞いた。それもさもありなん、と思わせられる――まさに、まさに極上のめくるめくロックンロール・グラフィカル・トリップ体験がページを繰るあなたを待つだろう、そんなモニュメンタルな一冊がこれだ。
90年代の活動初期からLA移住、そして日本に帰国してからの2004年あたりまで、彼の作品のなかから選び抜かれたピースがここに収録されている。じっくり絵を見せるページもあれば、指定紙を再現ということで、トレーシング・ペーパー調の紙を綴じ込んでいる凝ったパートもある。その仕様および内容は豪華きわまりない。それがA4判変型の上製本で、ずっしり重い240ページ。記事は日英バイリンガル表記だから、海外での発売も見越しての制作だったのだろう。「そのおかげで」これほどの仕様にもかかわらず、価格が割安である(本体4500円)というところも僕は強調しておきたい。これは宝だ。もはや二度と、これほどの超人画家がこの日本から登場してくることはないだろう。僕らはいま、奇跡の連続を目にしているのだ。
彼のタッチには、ロックンロールのエッセンスが溢れている。アメリカン・コミックスそのほか、かの国のグラフィカルな事物やプロダクトそのもの、映画からの影響も大きい。そこに絶妙の配分で日本のマンガ的なデフォルメ技術が施された、「神技」と言って差し支えないものが、ジェリービーンさんが描く「エロティックな女の子」であり、そのアートの極点こそが「女体のエロティックさ」なのだ。なぜそれほどまでに「デフォルメしたエロス」に拘泥するのか、というと、それがティーンエイジ・ドリーム!だからだ。ロックンロールとティーンエイジ・ドリームはイコールだからだ。
本書を手にとった人の何人かは気づくだろうことを、僕は先んじてここで言っておきたい。たとえば、北区王子の3Dクラブバースでおこなわれたイベントのフライヤーも、ここに収録されている。ジェリービーンさんが絵を描き下ろしていたからだ。簡易印刷されたそのフライヤーは、街のレコード店のしかるべき場所に、無造作に積まれていた。90年代の話だ。この領域でありさえすれば、想像を絶するほどの贅沢さすら、この東京の一部にもあった。僕らはそれを忘れるべきではない。
『米国音楽』誌の編集をしていた時代、ジェリービーンさんに何度か仕事をお願いしたことがある。LAに移住したあとも、連絡をとったことがある。「なぜ移住したんですか」というこちらの愚問に、彼はこう答えた。「だって、空の色が違うじゃないですか!」と。いま彼は東京の僕らと同じ空の下にいる。ここでロックンロールは可能なのか不可能なのか......それがまた愚問であることは、本書を開いてみれば、すぐにわかる。
Daisuke Kawasaki (beikoku-ongaku)
「The Birth of Rockin'Jelly Bean」
ロッキン・ジェリービーン著
(WANIMAGAZINE ART BOOK)
4,500円[税抜]