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「MEN'S FASHION BIBLE - 男の定番51アイテム」

「MEN'S FASHION BIBLE - 男の定番51アイテム」

メンズ・ファッションが「コンパクトにすべてわかってしまう」一冊。

14 3/25 UPDATE

本書の原題は『Icons of Men's Style』。茶色いジャケットにタイをゆるめ、サングラスを少し下げて鼻の上にかけ、こちらをじっと見つめるグレゴリー・ペックが表紙のあの一冊、と言えば、憶えている人もいるはずだ。見事な編集、秀逸なデザインで、この東京でも一部の洋書店で好評を博していた、あのヴィジュアル・ブックの日本版が本書だ。

本書の最大の魅力は、なによりも、「コンパクトにすべてわかってしまうこと」にある。日本版の副題「男の定番51アイテム」とは言いも言ったり、しかし事実そのとおりの「定番アイテム」について、「その魅力・歴史と背景・代表的な着こなし例」を、これほど的確に、すらすらと明瞭に解説できてしまった類書を、僕はほかに知らない。嘘だと思うなら、書店の服飾にかんする書籍のコーナーを訪れてみるといい。メンズ・ファッションの世界ではとくに、どこもかしこも「いわれ」についての分厚い蘊蓄本ばかりが目立つ。生涯一度も使わない日曜大工道具のカタログよろしく、カタカナ語としての「スペック」の解説ばかりが、これ見よがしに山と積まれてしまって、久しい。

その点、本書はまず、見ているだけで楽しい。「ブルゾン」の項ならば、最初にジェームズ・ディーン、つぎにスティーヴ・マックイーン、それから、ダニエル・クレイグの写真が、絶妙のトリミングで並ぶ。言わなくともわかる「マクレガー・ドリズラー/バラクータ/バラクータ」の三連荘を、こんなふうに見せてくれるところが、本書の最大特徴だ。つまり、メンズ・スタイルにおける永遠の「アイコン」となったアイテムを、それを着ることによって、やはり永遠なる「アイコン」となったスターの写真などとともに開陳してくれるわけだ。ローファーだったらマイケル・ジャクソン、レイバンのアヴィエイターだったら『トップ・ガン』のトム・クルーズ、日本版表紙のミック・ジャガーはパナマ帽(というセレクションは渋い)、洋版表紙のグレゴリー・ペックはもちろんこれもアイウェアだ。そのほか、アウター全般、トラウザース、シューズ、アンダーウェア、テーラード、シャツ&セーター、アクセサリーもいろいろ、同種の手法で取り扱われている。かつての広告写真、雑誌のヴィジュアルなども、適時に差し込まれて目を楽しませてくれる。短くとも必要最小限の事柄を説明しつくしたテキストもいい。

本書はご贈答品としても理想的な一冊かもしれない。本来、こういった書籍を手元に置いておける程度の豊かさが、成人男性たる者には必要不可欠だったはずだ、という意味を伝えるために、ボーイフレンドに贈ってみるのはどうだろうか。しかし彼は、贈った人への感謝もそこそこに、本書の内容に感化され、無駄遣いに邁進してしまって逆効果だろうか。

重すぎる研究書ではなく、軽やかに生活のなかにあって、「いい気分」を醸造してくれる一冊としての本書の価値を、僕は高く買う。

text: DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)

「MEN'S FASHION BIBLE - 男の定番51アイテム」
ジョシュ・シムズ著
2,800円[税抜]
(青幻舎)