honeyee.com|Web Magazine「ハニカム」

Mail News

RUDE BOY 岡崎京子未収録長編

RUDE BOY 岡崎京子未収録長編

書庫から発掘された、岡崎京子の幻の長編作品集

12 12/10 UPDATE

副題の意味がわかりにくいのだが、これはつまり、「これまでに単行本に未収録だった」岡崎京子さんのマンガ、しかも長篇作品をまとめたものである、ということだ。これまでに単行本化されなかった理由としては、まず第一に「未完だった」ということなのだろう。著者の意向で未完となったわけではなく、掲載誌がなくなって連載が中断という、漫画家にとっては泣くに泣けない(場合もある)ような状況によって、「幻の作品」となっていたもの、だそうだ。そんな原稿が「宝島社の書庫から発見された」(アマゾンの商品説明より)ということで、このたびまとまったのだという。

といった単行本化に至る経緯そのものに、なんともいえない80年代臭を僕は感じる。あえて名を秘すが(まだ名前は言えない)、とある超大物マンガ家の原稿を掲載前に編集部がなくしてしまい(!)連載が終了した、などという恐怖の実話も、当時の「サブカルチャー」界隈にはあった。みんな間抜けで野蛮であり、それを担保できうるだけの本質的な豊かさがある時代だったのだろう。

そんな時代に、『Rockin' Comic』『マンガ宝島』(という雑誌が一瞬だけあった)などに掲載されていたのが表題作。89年から90年にわたって発表されたものだ。音楽と恋愛が禁止され、超管理体制が敷かれた近未来の社会が背景となっている、という点で「今日の日本を幻視したかのようだ」として評価する意見もあるようだが、これはとくにそんなものではない。「なんかの間違いで(間違えなくとも)そんな社会、すぐにくるかもね」というのが、あの当時、僕らのまわりでのごく普通の認識だった。なぜならば、僕らの親以上の世代には全員、生々しい戦争の記憶があったからだ。

見るべきは、作品の背景となった社会の見立てではなく、登場人物のあっけらかんとした明るさだろう。とくに主人公、軽薄で女にモテて気がいい(だけが取り柄の)バンド少年・テリー。この「こたえなさ」。こんなキャラクター造型、たしかにあった。かつての岡崎作品の定番だった。映画『勝手にしやがれ』のベルモンドの系譜だと、僕は思っていたのだが。

そのほか、『漫画ブリッコ』での初連載マンガ、カットやイラスト、インタヴュー再録など、「未収録モノ」をふんだんに集めている。電気グルーヴを描いたギャグ小品、キョンキョンねたの4コマなど、とてもいい。こうした発掘、これからもできるかぎりつづけてほしい。

日本はまた戦争をやる国になるのかもしれない。すぐに始めてしまうのかもしれない。しかし、これから先になにがあっても、ここに収録されたすべての作品が「そこからもっとも遠かった時代」の刻印であることに変わりはない。

text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)

「RUDE BOY 岡崎京子未収録長編」
岡崎京子・著
(宝島社)
1,200円[税込]