12 10/01 UPDATE
雑誌『GROOVE』の同名連載をもとに、新規取材も加えてまとめられたムックがこれだ。タイトルどおり、プロフェッショナルDJの部屋が二十数箇所、豊富な写真とともに紹介されている。つまり、レコードと棚とDJ機材とCDと、そしてやはりレコードが、とてつもない物量で詰まった部屋の数々がここに並んでいるというわけだ。その様相は千差万別とも言えるし、どこも同じに見える人もいるだろう。後者の人はいい。だが前者の人にとっては、こたえられない一冊だと、まずは言っておこう。
ケニー・ドープの部屋を、僕は一押ししたい。もし突然神様が目の前にあらわれて「このムックのなかの部屋、どれでもひとつお前にあげるぞよ」と言われたならば、かなり悩むが、やはりケニー・ドープで決まりだ。「レコード棚で壁面がきれいに丸くラウンドするように設えられた廊下の角」など、僕は生涯初めてここで見た。次点として、住環境的な面での最高点はピーナッツ・バター・ウルフだろうか。こうした場合、カリフォルニアの優位性は卑怯なまでに圧倒的だ。
それとは逆に、本書の大半を占める日本人DJのほぼ全員が、同種の戦いに明け暮れている。これこそが本書のテーマである、と言っていいだろう。その戦いとは、「限定されたスペースに、いかにして多種多様かつ大量のレコードを収納していくのか」という、終わることのない苦闘だ。なぜ「終わらない」のかというと、いつもレコードを買うからだ。にもかかわらず、どんな部屋にも物理的限界がある。そして言うまでもなく、日本人の住環境は世界有数で貧しく、とくに都市部の部屋は壊滅的に狭い。この状況をどうしのぐのか?――というところが、日本人パートの見せ場となっている。
たとえば、出世魚のようにレコード部屋がどんどんと拡大していくMUROさんの様子は、間違いなく「男の夢」のひとつを具現化した勝利者として讃えられるべきものだろう。一方、ほぼ都市伝説と化していたクボタタケシさんの部屋もすさまじい。おそらくは標準的なマンション・サイズの部屋のなかに、想像を絶する密度と正確さで、ありとあらゆるモノが集積されている。人呼んで「整理されていないモノがない」部屋――これもまた、東京オリジナルの見事なるライフスタイルと言えるだろう。
総ヒノキでレコード棚を作るんだ、と言った友人がいた。その友人に刺激されて、『男のレコード棚道』という本を出そうと思ったことが僕にはある。90年代の話だ。友人はヒノキの棚を作ったのか、作らなかったのか。数年後、彼は東京を離れていった。本書のコラムにて、須永辰緒さんがこう書いている。須永さんは、約8000枚のレコードを所有している。これを引っ越しのたびに動かさねばならないのだが、この枚数になると、その総重量は「3トン」にも達するのだという。つまり引っ越しをするとき、須永さんは「普通の人よりも3トン多い荷物を出し入れしている」のだという。
いまから数十年後には、なにもかもデータ化される、のかもしれない。そのころに振り返ってみたら、大笑いされるような一冊が本書なのかもしれない。その意味でも、本書には計り知れない価値があるのではないか、と僕は思う。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「GROOVE presents DJの部屋」
GROOVE 編集部・著
(リットーミュージック・ムック)
1,890円[税込]