12 5/29 UPDATE
すこし前(今年の一月)に邦版である本書が発売されたのだが、いつ開いてみても、新鮮な感興を得ることができる。良書だと言っていいだろう。「読めば必ず、ファッション・インスピレーションが得られる刺激的な一冊」というのが、本書のキャッチ・コピーだ。ファッションのインスピレーション、というのは、なんなのか。自らの着こなしの参考、とか、洋服を作ったり販売したりする人の参考、といったことなのか。僕はいまいちよくわからないのだが、もしかしたら本書は、そういった「実用の役」には立たないのかもしれないな、とも思う。が、そこが最大の魅力でもある。
本書の題材は「服飾」であり、人物ポートレートが並んではいるのだが、「ファッションの本」というよりも、生き身の比較文化論、目で見る文化人類学の一冊として、かなり高次の完成を果たしているのではないか、と感じる。なによりもまず「編集のセンス」が素晴らしい。どんな写真を選んで、どう並べるか。並んだときに、どのような効果が生まれるのか──そうした事柄を完璧にコントロールした上で、深い奥行きを与えられている一冊だ。
ストリートからハイ・ファッションまで、民族衣装から日常着まで、各項目ごとに分類され、簡潔なるキャプションを添えられて、並べられている。項目は、たとえば「チェックメイト」(チェック柄について)、「水玉とストライプ」、「フラワー・パワー」、「アニマル・マジック」......などなど。これに沿って各写真は「標本」としてピックアップされるため、ロッド・スチュワートが登場するページもあれば、ボウリングをする舞妓さんが突然出てくるページもある。「何度見ても飽きない」という効果は、こういうところから生じる。
ファッション・ジャーナリストの著者が、古今東西の写真アーカイヴを前に、おそらくはたいへんに楽しみながら仕上げた「人類の服飾文化一大絵巻」と言っていい一冊が本書だ。
text: Daisuke Kawasaki (Beikoku-Ongaku)
「ファッション・インスピレーション」
エリザベス・ウォーカー著 和田侑子・訳
(グラフィック社)
2,625円[税込]