11 10/24 UPDATE
1975年に晶文社から発行されたオリジナル版は入手が難しくなっていたので、この復刊&文庫本化はひじょうに喜ばしい。原著がリリースされたのは64年。『In His Own Write』と題された一冊で、ビートルズが最初の国際的大躍進を遂げる時期に発行された。ジョン・レノンによる文章と、のちに自画像などで文化的アイコンともなった、彼のあのほにゃほにゃした独特の線画が、どちらも多数収録されている。簡単に言うと、これは「イラスト付きのナンセンス・ストーリー集」ということになるだろうか。わかったようで、わからないようで、すっとぼけていて、笑えるような、どこで笑っていいのか困るような――それでいて、じつに味わい深い、迷文と、それにひけをとらないイラストを楽しむことが、まずできる。
が、この文庫版の最大の特徴は、今回はじめて、巻末に原文が完全収録されたことだ。だから僕は、こんなふうに読んだ。最初に日本語訳を読む。脳がかきまわされたような気分になりつつ、原文を読む。よりわからなくなる。そこで片岡義男による「訳者解説」を読む......そこで推測されている「ジョン・レノンによる〈言葉遊び〉の法則」を参照したうえで、また原文に......まだ当分のあいだ、僕はこのような読みかたで、本書を楽しむことができるだろう。
日本人にとって、ビートルズを芯から理解しようとするときの最大の障壁は、「歌詞が英語だった」ということに尽きるだろう。「はじめて聴いたそのときに」彼らの歌詞の、その含意や言い回しの面白さを、委細もらさず聞き取って理解できた人が、日本にどれほどいたのか。とくに、ジョン・レノンにおける「言葉の力」を、どれほど正確に理解できていたのだろうか。その秘密の一端に触れるためには、本書を読みつつ、ぐにゃぐにゃになってみることが必要なのではないか、と僕は思う。気が抜けた、遊びのような、そんなところから発したものだからこそ、「ジョン・レノンのものの言いかた」のかっこよさ、切れ味の源へと接近できる経路が、ここには明確にあるような気がする。
ビートルズを知っていたくせに、と僕は最近よく思う。60年来から連綿と、「ビートルズを聴くなんて当たり前」とされている国だったはずなのに、今日の日本のポップ・ソングにおける「言葉の衰退」は、いかなる事情からなのか?と。それなりに歴史があった「日本語ポップ・ソング」のヒット・チャートが、一瞬にして韓国製のそれにリプレイスされてしまった最大の理由は、かなり前から「日本人が、まともな日本語の歌詞を書けなくなっていた」からだ。日本語が下手だから、きっちりと構成された韓国語ポップスの「日本語訳」版に、ものの見事に敗北してしまったのである。「日本語が上手い(はず)」ぐらいが、最後に残された日本人の優位性であったにもかかわらず。
であるなら、「小学校からやり直そう」という意味でも、いま本書を読むことを、とくにソングライター志望のかたや、あるいはプロフェッショナルにも、ここでお薦めしておきたい。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「絵本ジョン・レノンセンス」
ジョン・レノン著 片岡義男・加藤直 訳
(ちくま文庫)
840円[税込]