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かつて当欄で日本発のラジカセ写真集を紹介したことがありましたが、これはひと味違います。プロダクツそのものの機能解説や分類ではなく、言うなればその「使用例」を追った視点が光る一冊。対象となったのは、日本製のラジカセのなかでも、2つ以上のスピーカーを装備していて、とにかく巨大なガルガンチュアで......それは80年代初頭に「ブームボックス」という名を冠せられて、またたくまにストリートを席巻した、一群のマシーンのことだ。あるときは「ゲットー・ブラスター」、またあるときは「ジャムボックス」と呼ばれたそれらヴィンテージ機を中心に据えながら、あの時代の「街と人の様子」をも活写した写真集が本書。
ゆえに、本書に掲載されたマシンは「ぴかぴか」ではない。ステッカーの貼り跡があったり、スクラッチ傷があったりと、「使用感」ばりばりなところが、じつにいい。つまり後期クラッシュや初期ビースティーズやLLクールJらのアーティスト・フォトのなかで燦然と輝いていた「あの」実機とかなり近い感触のブームボックスが、真っ正面からかちっと撮られた美麗写真にて、つぎからつぎへと紹介されていくわけで......ちょっとこれは、興奮します。有名無名問わず「街なかでブームボックス持った人物写真」も多数。LLやMCAをはじめ、ファブ5フレディ、クール・モー・ディー、DJスプーキー、リサリサ、そしてなぜかボブ・グルーエンまでもが「ブームボックスの記憶」を語っています。序文はスパイク・リー御大が担当。
どうも日本の家電メーカーやその太鼓持ち連中は、ソニーのウォークマンが「さいしょに街に音楽を連れ出した」という大嘘を、百年一日のごとく、まるで神話のように流布したいようなのですが......実際のところは、「こっちがさき」だ。なのでアップルの後追いばっかりやるのはもうやめて、これらヴィンテージ機をUSB対応にして、超限定の工芸美術品として復刻、マニアに売りつければいい(俺は買います)──などと、やはりページを繰るたびにムラムラとしてしまう、そんな一冊。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「THE BOOMBOX PROJECT」
Lyle Owerko著
(Abrams Image)洋書