10 11/29 UPDATE
僕は『ミュージック・ライフ』誌を買ったことはない。音楽雑誌を買うべき年齢だったころ、自分がパンクスだと、ロンドン・パンクの洗礼を受けたんだぜと思い込んでいたので、「あんなミーハー雑誌、買ってられるか」との姿勢を貫徹せねばならず(バカ)、しかし同誌にザ・クラッシュのとてもいい写真が載っていたときには、図書館などでそのページだけを破っては盗んでいた(犯罪ですね)。
しかし、「これしかなかった」時代というのがあった。音楽著作権の管理会社がシンコー・ミュージックの原点であり、その強みを生かして、すくなくとも「洋楽雑誌」がビジネスとして成立していた期間、王者としてずっと君臨していたのが『ミュージック・ライフ』だった。本書は、同誌「だけ」が、ビートルズが活躍し、来日し、そして日本中を興奮させた時代をレポートしていた、という事実を、まざまざと見せつけてくれる、秀逸なる「復刻本」である。ビートルズをあつかった表紙、記事、広告まで、きっちりと掲載されていて、「当時のほんとうのところ」を知るための、第一級資料と言えるだろう。それにしても......見ているこちらが赤面してしまうぐらい「ミーハー」だ。いかにこの当時のビートルズがアイドルだったのか、ということが、ひじょうによくわかる。「ポールがひげをそりました」が見出しの一発目というのは、これはかなり、すごいのではないか。
そんな大アイドルに対して、つねに全身全霊で突貫取材を試みているところも、いまとなっては、頭が下がる。ファンジン精神、と言えばいいのだろうか。インタヴュアーの突っ込みが浅かろうが、なんだろうが、「若きビートルズ」に、まだ若かった日本という国の「洋楽赤ん坊」がいかに挑んでいったのか、という青春譜的な記録として、僕は読んだ。
またもや何十回めかのブームを迎えているビートルズではあるが、たとえば週刊モーニングにて連載中の『僕はビートルズ』など──ちなみにこれは「地上最低最悪の音楽漫画」の筆頭だ──「あれから時間が経った」からこその、歪曲され、我田引水された記事や表現なども、すくなくはない。そんなときに、この一冊が、こうしてここあることは、じつに嬉しく、頼もしい。一度も買わなくてごめんなさい、と僕は思った。
text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)
「ミュージック・ライフが見たビートルズ 」
(シンコーミュージック・エンタテイメント)
2,500[税込]