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葬式は、要らない

葬式は、要らない

「お葬式マナー」の概念を覆す不可逆的教本

10 4/26 UPDATE

いま、売れに売れている一冊。要するにこれは、宗教学者である著者が「日本の葬式費用がバカ高いのはなぜか?」(ほぼイギリスの20倍、韓国の10倍弱、アメリカの5倍)といった点から考察を始め、「葬式仏教」と化した日本仏教とは何よ? そして、それはなんで出来あがってきたのよ?──といったことを実にわかりやすくバラしていったのが本書。とくに「戒名のうさんくささ」については、かなり熱い! おもな購読者は(たぶん)親の葬式(&埋葬)の心配をはじめたような年齢層だと思われますが、しかしじつは、若い層こそ「早めに」これを読んでおくといいかもしれない。日本というこの変ちくりんな国が、なぜにそう変ちくりんなのか、その一端(しかも、かなり重要な一端)がわかります。
 
たとえば、世にはよく「マナー本」というものがある。もちろん「葬式のマナー」なんてのもあって、「この場合は、香典は幾らぐらいで」なんてことも決まっていて、「いつもいつも」それがどこかから伝えられて、その空気を読まない奴はなっとならん! とかなるのが、これが日本という国の、「これまで」のしきたりというものだった。なぜだ? 明確になんらかの宗教的裏付けなどあるわけでもないのに、なぜそれが「しきたり」になったのだ? なぜ暗黙にそれを了承しておかないと、まともな大人になれないどころか、ムラの構成員にもなれないなんて! その裏で「坊主丸もうけ」っていうのは、本当なのか?
 
本書は具体的には「葬式仏教」のシステムと歴史の解析をおこなっているわけですが、そこについて考えることはすなわち、「世間では当たり前」と言われていること、そのそれぞれについて、「なぜなんだろう?」と考えてみる契機ともなり得るのではないか、と僕は思う。かつて──60年代とか──に、アメリカの若者などが、自分の国のシステムや「普通」ということについて、「なぜなんだろう?」と考えはじめたことから、不可逆的に社会が変化していったように......そんな第一歩として、「知っておくべき」情報満載の一冊。いやほんと「理由もわからない」ものに手を合わせて、高いお金払うなんて、ゴメンじゃありませんか! と声を大にして言いたくなる良書です。

Text:Daisuke Kawasaki(Beikoku-Ongaku)

『葬式は、要らない』

島田裕巳・著
(幻冬舎新書)
777円[税込]