09 5/28 UPDATE
年間400本もの映画が、この日本では作られているらしい。たしかによく絨毯爆撃が繰り広げられている。スポットCMやら、タイアップ番組やら、コンビニに貼られたポスターなどで、「まもなく公開!」とか、聞きたくもない情報が押しつけられるようになって、ずいぶん経つ。これが「邦画バブル」というものらしい。
であるからして、(デートなどで)ついそんな映画を観てしまって、腹が立った人。「なんだかなあ」と思ってしまった人にとっては、得難い一冊がこれだろう。
たとえば、『恋空』、『ALWAYS・三丁目の夕日』、(織田裕二の)『椿三十郎』、『L change the WorLd』、『少林少女』、『ポニョ』......こうしたもろもろの「ヒット駄作(?)」に、「それはおかしいだろう!」と歯に衣着せぬ「正当な批判」をおこなっている、日本で唯一の映画本が本書。月刊『映画秘宝』の人気連載が一冊にまとまって、脚注も充実。読めばスカッと気分爽快。ここに載っている日本映画を、一本も観ていない僕が言うのだから間違いない。
表現にとって最も不幸なことは、正当な批評が存在しないことだ。しかしその表現が、多くの出資者がいて成立する大衆娯楽だった場合はどうか。現代では、そうした事業は、まるで地上げして商業ビルを建てるような発想で進められるため、あらかじめ各種の「利権構造」で、業界の広範囲が縛り上げられることになる。であるから、業界側から求められるのは、「翼賛報道」だけであり、正当な批評など、商売の邪魔でしかない。「いま、ここで」適当にカネが回ればいいだけなのだから。すると当然、収益構造がどんどん悪化してゆく。大衆娯楽の一ジャンル、ポップ・カルチャーの一ジャンルが、徐々に衰弱して、死んでゆく......ひどいものだが、これは日本映画に限った話ではない。Jポップ業界など、もっとひどい。経済規模が小さいから目立たないだけで、金主とメディアの癒着は映画業界の比ではない。
それだけに、本書の舌鋒は輝いて見える。映画のみならず、ポップ・カルチャーにすこしでも興味がある人だったら、ここにある勇気と熱情に触発されるはずだ。毒舌の背景にある「映画愛」に打たれるはずだ。
なにもかも、どんどん悪くなってゆく。そんなときに立ち上がる人こそ、ヒーローなのだ──それは僕が、映画から学んだことだ。まるで梁山泊に集った豪傑たちのように、「真のヒーロー」が雄叫びを上げている一冊が本書。
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
『バッド・ムービー・アミーゴスの日本映画最終戦争!
<邦画バブル死闘編>2007ー2008年版』
柳下毅一郎、江戸木 純、クマちゃん
(洋泉社)
1,680円[税込]