09 4/02 UPDATE
MTVの番組『CRIBS』のロングラン・ヒットでも明らかなように、他人の豪邸を見るのは楽しい。いい趣味の豪邸もいいが、悪趣味ならなおさらいい。もっといいのは、持ち主の趣味や世界観が問答無用で炸裂しているような家。精神世界が形になったようなもの。あるいは、その精神世界をつつみ、育む、孵化器のような......まさに本書におさめられているのは、そんなタイプの家々の究極。世界に名だたる偉大な作家たちが丹精こめて仕上げた家が、ここで紹介されている。
マルグリット・デュラスの序文からはじまり、登場する作家は、コクトー、フォークナー、ブリクセン、ヘッセなどなど20名。だいたいが作家というのは家で仕事をするものだ。ゆえに、そのこだわりはハンパではない。その書斎はもちろん、リビング、プレイルームから庭まで、見事な写真で切り取られている。原著者は元カーサ・ヴォーグ誌の編集長、カメラマンもヴォーグ、エルなどで専属を経た人物なので、クオリティの高さは折り紙つき。日本語版のみ、「作家紹介コラム」も収録されているので、「家から見た作家図鑑」といった趣も。仏文学者にして碩学をソフトに語る名人、鹿島茂先生が監修と共訳を担当されています。
収録された家のうち、やはり男子的に外せないのが「キーウェストのヘミングウェイ邸」。あまりにも有名な、男の城。陽光が窓から差し込む中、壁にレイアウトされたハンティングやフィッシングの記念品......クリエイターというなら、まさに究極のクリエイターとして文学世界に屹立した文豪の部屋が、男子的趣味に満ちていたという点が、じつにかっこいい。目指すなら、「家だけは作家」。間違っているのかもしれないが、そんな生き様もあっていいんじゃないか!と思わせられるような一冊。
Text:DAISUKE KAWASAKI (Beikoku-Ongaku)
『作家の家 創作の現場を訪ねて』
プレモリ=ドルーレ 文/エリカ・レナード 写真/鹿島茂 監訳/博多 かおる 訳
(西村書店)
2,940円[税込]