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「境界」 高山明+小泉明郎展

「境界」 高山明+小泉明郎展

揺れ動く境界を追いかけるアート

15 7/28 UPDATE

すみずみまで管理が行き届いて、清潔で安全な場所。居心地はいいけれど、ときどき「これでいいの?」と聞いてみたくなる。近代合理主義が作り上げたこの社会にどこか違和感を覚える人が増えている。そんな中で、アートには何ができるのだろう?

「境界」展に出展するのは高山明と小泉明郎の二人。高山は演出家として、これまでの演劇の枠組みを解体してしまうような試みをしている。それはたとえば、観客が劇場でガイドブックと小型ラジオを受け取り、会期中にガイドブックに示された場所に行ってラジオの周波数を合わせると、その場所にまつわる物語が聞こえてくる、といった"演劇"だ。

この展覧会で高山は会場内に『ハッピー・アイランド ―――義人たちのメシア的な宴』と題された仮想的な風景を作り出す。鑑賞者はモニターに映し出された牧場主と牛たちの間を歩きながら作品を鑑賞する。こんな特別な身体的・視覚的な体験が鑑賞者にもたらすものは何だろう。

小泉明郎はパフォーマンスや映像による作品を作っているアーティスト。俳優を使ったドラマ仕立ての映像でコミュニケーションの不全を描く、人々が語る過去の記憶と現実とが交錯する様子を見せる、といった作品を発表している。この展覧会で発表する新作は『忘却の地にて』と題された作品を通じて、人間の記憶のメカニズムを映し出すもの。記憶とは自分が保持しているものなのか、それとも他者やモノを媒介として確認することができるものなのか。かつて起きたことの心理的な記録である記憶と現実、自分と他者、意識と深層心理、そういったものの境界が揺らめくさまが浮かび上がる。

同じ会場に並ぶ二人の作品は別個のものとして見ることもできるし、鑑賞者が何らかの関連を見出すことも可能だ。二人の作家の間や作品と鑑賞者、アートと作品、身体と精神など、"境界"をどこに設定するのか、それによってさまざまなものが見えてくる。ゲストキュレーターの住友文彦が仕掛けた揺れ動く境界を追いかける、ここでしかできない体験ができる。

text: Naoko Aono

「境界」 高山明+小泉明郎展
会期:2015年7月31日〜10月12日
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
東京都中央区銀座5-4-1-8階
TEL: 03-3569-3300
11:00〜20:00(日曜〜19:00)
8月5日(水)休館
入場無料
http://www.hermes.com

1高山明《義人たちのメシア的な宴》(ヘブライ語聖書(13世紀) ミラノ、アンブロジアーナ図書館蔵)
2高山明《東京ヘテロトピア》(2013年より継続中、ツアーパフォーマンス)
Photo : 蓮沼昌宏
3高山明《光のないII (原作:E・イェリネク「福島-エピローグ?」)》(2012年、ツアーパフォーマンス)
Photo : 蓮沼昌宏
4小泉明郎 新作のためのイメージ