15 7/07 UPDATE
デヴィッド・ボウイやT.REX、YMOや布袋寅泰ら、独特の空気感をまとったポートレイトで人気の写真家、鋤田正義。1970年代から制作を続ける彼は今も広告写真やテレビコマーシャル、映像作品などで精力的に活躍している。その彼の世界を"写真論"というコンセプトでまとめ上げる展覧会が開かれる。
広告代理店に勤め、初期にはドキュメンタリーも手がけていた彼の転機になったのは1969年のウッドストック・コンサートだった。サブカルチャーに興味を持った鋤田は70年にニューヨークで寺山修司と出会い、翌年「書を捨てよ町へ出よう」の撮影監督を務める。一方T. REXの撮影をするためにロンドンへ飛び、そこでデヴィッド・ボウイとも出会う。後にボウイの『ヒーローズ』ジャケットに鋤田の写真が採用されるなど、彼らとは深い信頼関係で結ばれるようになった。80年代にはマッドネスの「ムカデダンス」で話題になったホンダ「シティ」のコマーシャルや、石岡瑛子がアートディレクションを担当した沢田研二のヌード写真集を手がける。映画ではジム・ジャームッシュや是枝裕和らの作品のスチルを撮影している。
鋤田の写真は時代を切りとるというよりも、被写体とともに少し先の時代を作り出していく感じだ。音楽のセッションのように、それぞれの"共犯関係"がときにスリリングな、ときに静かな画面を生み出していく。
展覧会は高校時代に撮影した母親の写真から始まり、デヴィッド・ボウイのステージ、鮮やかな色彩と陰影のある画面でファッションを表現した実験的な作品へと続く。過去と現在、カラーとモノクロが交差するエリアでは鋤田の心象風景を見せる。鋤田の写真と寺山修司の言葉が組み合わされて、寺山の稀有な個性を際立たせるものも。展覧会の最後は「フラッシュバック」「旅」「記憶」がテーマだ。写真によってさまざまな時代に引き戻される記憶が、均等に流れているはずの時間に濃淡をつける。ミュージシャンや映画監督との出会いから生まれた物語をたどる、ロードムービーのような展覧会だ。
text: Naoko Aono
『鋤田正義写真展・フラッシュバック』
会期:2015年7月18日〜11月8日
会場:彫刻の森美術館 緑陰ギャラリー
神奈川県足柄下郡箱根町ニノ平1121
TEL: 0460-82-1161
9:00〜17:00
無休
一般1600円
http://www.hakone-oam.or.jp
(クレジット)
© Masayoshi Sukita
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