13 6/06 UPDATE
昨年の「ドクメンタ」で大きな話題を呼んだドイツのアーティスト、トーマス・バイルレ。車や飛行機をモチーフにした巨大なオブジェは1937年生まれの作家の新作とは思えない迫力だった。その彼のインスタレーションがエスパス ルイ・ヴィトン東京で展示されている。
東京でのインスタレーションのテーマは「交通」。床にびっしりと敷き詰められたパズルのような作品は、ミニカーが走っている道路のミニチュア。ギャラリー奥に置かれた新作『Conducteur(指揮者)』では自動車のワイパーのようなアームがエリック・サティの音楽などで構成された音のコラージュにあわせて指揮をするように動く。
「旅をめぐるボキャブラリーや複雑な都市のヴィジョンのコラージュだ」とバイルレは言う。
この「交通」というモチーフのもとになったのは、1970年代の後半、初めて日本を訪れたときの経験だ。彼を驚かせたのはあらゆるところに整然とモノを詰め込み、スムーズに流通させていく日本の密度の高さだった。
「空間でもモノづくりでも、ごく小さなスペースを効率よく使えるシステムを構築している。アメリカやロシアが大きなスペースを気ままに使い、どんどん拡大させていこうとするのとは全く違うそのやり方が、とてもクリエイティブだと思った」
しかしそれから30年以上たった今、交通、とくに車を取り巻く状況は大きく変わっている。
「もしかすると将来、車がなくなって遺跡のようになった道路や車の残骸を見て人々が『これは何のために作られたものなのか?』と思うかもしれない。若い人が今、第2次世界大戦後に放棄された塹壕の跡が何なのかわからなくて不思議に思うみたいに」
バイルレはドクメンタでも発表し、この展覧会では床に置いた作品に「Car」(車)と「Armageddon」(ハルマゲドン)を合成した『Carmageddon』とつけた。奇妙な語感のこの造語がポスト車社会の到来を暗示する。
バイルレの作品にはミニマリズムの要素がある。同じエレメントをリピートし、組み合わせて一つのアートピースになる。バイルレは若いころ、織物工場で働いていた。バイルレのアートワークと織物とは共通する構造を持っている。
「同じことを繰り返していても、できあがったもの一つ一つはすべて違う。だから手作りと機械による大量生産は相反するものではないんだ」
同じように、自然と人工という一見対立する要素も互いに共存させることができるのでは、と彼は考えている。
「まるでファンタジーのように聞こえるかもしれないけれどね」
バイルレは日本で、混み合った地下鉄でも人々が互いに衝突することなく、本を読んだり瞑想にふけったりして自分の世界を保っていることに感服したという。
今回の個展には自動車事故を再現した模型や、風光明媚な山を切り開いていく道路を描いた作品も並ぶ。しかしテクノロジーが個人や自然や伝統を破壊するのではなく、穏やかに共存し、互いに発展することができる、そんなオプティミスティックな態度も感じられる展覧会だ。
text: Naoko Aono
トーマス・バイルレ『Monuments of Traffic』
開催中〜9月1日まで
エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5
ルイ・ヴィトン 表参道ビル7階
tel. 03-5766-1094
12:00〜20:00
会期中無休 入場無料
© Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo