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宇治野宗輝 ポップ/ライフ

宇治野宗輝 ポップ/ライフ

大量生産された機械が奏でる、日本の奇妙な近代。

13 3/25 UPDATE

なぜか今にも走り出しそうな気がしてくる、エネルギーとスピード感あふれるアートをつくっている宇治野宗輝。その彼の個展が開かれるのは富士山にも近く、アートとはまた別のエネルギーが渦巻く箱根。彼の新作と代表作が並ぶ、集大成的な個展だ。

新作の一つ、「ドラゴンヘッド」は2011年にニュージーランドで着想されたもの。日本とニュージーランドは同じ環太平洋地域に属する国であり、共通するカルチャーもあるという。
「水に関する想像上の生き物、ドラゴン(竜)もその一つ。頭を車にしたのは、車が走る首都高が東京を練り歩く竜のように思えたから。箱根は竜神のいる場所とされているのも理由の一つです」
この作品を構想していた間にニュージーランドと東日本で起きた地震で彼は、人間の及ばない力があることを想像しなくてはならないと感じたという。車という物質文明の象徴と土着宗教的なドラゴンの組み合わせはいかにも暗示的だ。

宇治野が長年感じていた「日本の近代以前と近代以降の接続の気持ち悪さ」を作品にしたのが、透かし彫りで「Gパン」「Yシャツ」と書いた平面作品だ。「Gパン」は「GIパンツ」から、「Yシャツ」は「ホワイト・シャツ」から生まれた和製英語。宇治野は以前、「現在の日本文化は伝統のものにアメリカ文化を接ぎ木したものだ」と言ったことがある。外来語の表記に使われるカタカナをあえて伝統的な日本家屋の部材である欄間のような透かし彫りにしたことで、接ぎ木されたカルチャーがさらにもう一回転してしまったような奇妙な感覚に襲われる。

2階の展示室には「The Rotators」シリーズが並ぶ。DJ用ターンテーブルやモーターで動く家電製品の自動リズム演奏装置、家具などでつくられたハイブリッドなオブジェだ。このシリーズに使われている家電製品や工具や家具のパーツは、世界中どこでも手に入るものが条件なのだと宇治野は言う。「世界中で均一な文化をモチーフにしているんです」。展示室の壁には大きな花柄の壁紙が貼られた。大量生産された既製品が、1964年生まれの宇治野が生活してきた大量消費社会を象徴する。

期間中、4月27日には宇治野のライブも開かれる。彼が一人で「The Rotators」シリーズを操るパフォーマンスだ。サウンド・スカルプチャーが奏でる音が消費物質文明の次の時代を召喚する。

text: Naoko Aono

『宇治野宗輝 ポップ/ライフ』
開催中~2013年7月15日

彫刻の森美術館
神奈川県足柄下郡箱根町二ノ平1121
tel. 0460-82-1161
9:00~17:00
会期中無休
入館料1600円
http://www.hakone-oam.or.jp


1「DRAGON HEAD」2011年(参考図版)

2「THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD」2010年 「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」展示風景、森美術館 撮影:KOO

3「THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD」2010年 「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」展示風景、森美術館 撮影:KOO