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生への欲望と死への衝動は表裏の関係であること。人間に似ていれば似ているほど親近感を覚えるけれど、あまりに本物そっくりになるとその親近感が急に気味の悪さへと転換する「不気味の谷」。クエイ・ブラザーズの作品を見ているとこんなことを思い出す。めちゃくちゃに弦をこすられたバイオリンがキィキィと悲鳴をあげる、そんなぞわぞわした気持ちにもさせる映像作品を発表している二人組だ。人形やオブジェを少しずつ動かしてはコマ撮りするという手間のかかる手法で作っている。そのストップモーション・アニメと実写、精緻なグラフィックが組み合わされた映像には死の影や闇が色濃く漂う。
一卵性双生児であるスティーブン・クエイとティモシー・クエイが生まれたのは1947年のアメリカ。アメリカでイラストレーションを学び、後に短期の予定でロンドンに渡るが、結果的にそこを拠点とすることになった。彼らは繰り返し、東欧のアートや文学が自作に与えた影響について言及する。学生時代に出合ったポーランドのポスターや、チェコで盛んに制作されていた人形アニメなどだ。その背景をたどっていくうちに東欧の音楽や文学に興味を持つようになったのだという。とくに大きな転機となったのはカフカの日記だった。そこには小説に書かれなかった、ちぎれちぎれの断片や妄想をかき立てるさまざまなものがうごめいていた。もちろんチェコのストップモーション・アニメの巨匠、ヤン・シュヴァイクマイエルには多大な敬意を表明しており、「ヤン・シュヴァイクマイエルの部屋」という映像作品も作っている。その他、代表作「ストリート・オブ・クロコダイル」の原案はポーランドの作家ブルーノ・シュルツであり、チェコの作曲家、ヤナーチェクを題材にした映像作品など、彼らの東欧・中欧への偏愛は尽きることがない。
現在ニューヨーク近代美術館で開かれているクエイ・ブラザーズの回顧展は未公開の初期作品を含む映像作品、それに使われた人形やセット、彼らが初期に手がけていたドローイングやペインティング、グラフィックデザイン、カリグラフィからインスタレーションに及ぶ広範囲なもの。うなされているのにいつまでも見ていたくなる奇妙な悪夢のようなクエイ・ブラザーズの世界へトリップできる。
text: Naoko Aono
『Quay Brothers: On Deciphering the Pharmacist's Prescription for Lip-Reading Puppets』
開催中〜2013年1月7日まで
MoMA(ニューヨーク近代美術館)
11 West 53 Street, New York, NY
(+1) 212-708-9400
10時30分〜17時30分(金〜20時)
火休
(左)「宙づりになったバレリーナ」1967年 ドローイング
Ballerina suspended over the herd. 1967. Pen, ink, and paint on paper , 7 3/4 x 6″ (19.7 x 15.2 cm). Image courtesy of the Quay Brothers.
(右)「ストリート・オブ・クロコダイル」 1986年
Street of Crocodiles. 1986. UK. Quay Brothers. Image courtesy of the filmmakers.
© 2011 The Museum of Modern Art