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ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガーはスイス出身の二人組。水戸で開かれている個展は彼らにとって過去最大規模のもの。2人は1ヶ月以上前から水戸に滞在して、作品をつくってきた。会場には観客が参加する作品がいくつかある。観客が自分の涙を採集して、顕微鏡でその結晶が成長していくのを観察できる作品はその一つだ。涙の成分は人や、そのときの状況によって異なるから、結晶の形も違うものになる。「涙を結晶化させることで、自らの内面を発見できる。涙を流すことで元気になったり、痛みを忘れられることもある。だから涙は重要だと思うんだ」と彼らは言う。
すでに何度か日本でも展示をしている彼らは以前、福岡でおもしろいものを見つけた。一人ずつ仕切りがあるラーメン店だ。「Sweet Little Nothing」というインスタレーションでは、そのブースからヒントを得たしつらえに「友人の遺品のUSBメモリのキャップ」や「消しゴムのカス」などが展示される。経済的な価値はないけれど、人によってはお金に替えられない価値を持つものや、価値について問いかけるものだ。会場ではメニューカードを模した紙に、そのものの物語が書かれている。「それを読んで、想像をめぐらせて欲しい」とアーティストは言う。
抽象絵画のような美しい色彩の平面作品「Drop Painting」は、茨城県の温泉や汽水に鉄塩を加えて化学反応を起こさせて描いたもの。重い鉄がその重さを失ったように見える。ドット模様のドローイングが少しずつ変化していく映像と、スイスのネイチャーヨーデルを組み合わせた「Logic of Beauty」は、常に移り変わっていくことを受け入れる"無常"の概念にも通じる。旅先で出会った人をゲルダが突然持ち上げ、ヨルクが写真に収める、という「Lift up」は初期のシリーズ。写真に写っている人たちも見るほうもなぜか笑ってしまう作品だ。
展覧会タイトルの「Power Sources」は直訳すると「力の源」。それは会場に並ぶアートの中だけにあるのではなく、そこを訪れる人の中にもあるはずだ。ときに心が折れることがあっても、またしなやかに立ち直る強さがあることを思い起こさせてくれる。
text: Naoko Aono
ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー
Power Sources - 力が生まれるところ
2月11日〜5月6日
水戸芸術館
茨城県水戸市五軒町1−6−8
tel: 029-227-8111
9時30分〜18時(入場は17時30分まで)
月休(4月30日は開館、翌5月1日休館)
http://arttowermito.or.jp/
《The Dream of the Office Plant》2008, Gerda Steiner & Jörg Lenzlinger
《Falling Garden》2003, Gerda Steiner & Jörg Lenzlinger
《Comment rester fertile?》2010, Gerda Steiner & Jörg Lenzlinger