11 10/06 UPDATE
1997年第22回木村伊兵衛賞を受賞、2001年第49回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館で作品が展示されるなど、国内外で高い評価を得ている写真家、畠山直哉。東京都写真美術館で開催される個展は自然と人間とのかかわりにスポットをあてたもの。これまでの代表作から近作・新作まで約135点が展示される。
「テリル」はフランス北部の炭坑のボタ山(捨てられた石炭ガラでできた山)を撮影したもの。石灰岩の採掘場で、ダイナマイトで山を発破する瞬間をとらえた「BLAST(ブラスト)」は映像で展示される。1000分の1秒でシャッターを切った写真を連続して見せる、というものだ。近作の「シエル・トンベ」はパリ・ヴァンセンヌの森の地下採石場の写真。一部は天井がはがれ落ち、上部から光が差し込んでいる。タイトルの「シエル・トンベ」はそのはがれ落ちた状態を表す。
今回の個展では上記のシリーズに加えて、畠山の出身地である岩手県陸前高田市の震災前・震災後を撮った写真も展示される。震災後の数日間、畠山は家族と連絡をとることができなかった。そのさなかにある人が「今東北に行けばいい写真が撮れるかもしれない」とつぶやいたという。畠山が「いい写真って?」と問うとその人は「流された車とか......」と答えたそうだ。その後ようやくの思いで陸前高田にたどりつくと町は流失、家族や多くの友人が犠牲になっていた。
その彼が撮る陸前高田の光景は、そこに縁のない人間が撮るものとは違う。畠山がこれまで撮ってきた石炭や石灰岩の採掘場では、人間が自然をコントロールしているけれど、震災はそうではない。いろいろな意味で畠山のこれまでの写真とも、他の人が撮る東日本の写真とも異質なものだ。
「僕自身のパーソナル・ヒストリーがおおいに関係している、そんな写真をこれまで僕は見せたことがなかった。僕はこれまで、こんなふうに人生と芸術を100%重ねてしまうことには警戒心を持っていたけれど、今回は僕自身が巻き込まれてしまって、うろたえながら撮っている。暗闇の中で壁に触っている感じがして、正解を出せるという気持ちにはなれない。でも、こういう実験は僕にしかできないのでは、と考えた」と畠山はいう。
被災地でいい写真が撮れる、と言われたときに畠山は「居心地の悪さ」を感じたという。それは彼が、震災以前にもときどき感じていたことだ。「もし誰かが僕の写真を見て居心地の悪さを感じたとすれば、"いい写真"という言葉について真剣に議論ができる場になるのでは、と思う」
一見、静かで淡々としているとも見える写真が投げかける問いに、すぐに答えることはできない。見たあとも、通常の余韻とは違う何かが残る展覧会だ。
text:Naoko Aono
畠山直哉展 Natural Stories
開催中~12月4日
東京都写真美術館(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
tel. 03-3280-0099
10時~18時(木・金~20時)
月曜休(祝日の場合は開館、翌火曜休)
入場料700円
http://www.syabi.com/
「テリル #2607」2009
フランス北部の炭坑のボタ山。
「ア・バード、ブラスト #130」2006
石灰岩の採掘場で、山をダイナマイトで発破する風景。今回は映像によって展示される。
「シエル・トンベ #4414」2007
パリの地下採石場。一部は落盤している。
「ヴェストファーレン炭坑 I/II アーレン #276」2004
廃坑になった炭坑の建物。