09 4/07 UPDATE
「最初はこれがアートになるとは思っていなかった」と金氏徹平は言う。おもちゃや日用品を積み上げ、接着した、一見ジャンクとも見える作品だ。大学では木や鉄による彫刻の基礎を学んでいたのだが「おもしろいんだけど、しっくりこなかった」という。そんなとき、自宅で作っていた立体コラージュを見た友人に「これも作品になるじゃない」と言われたのが転機になった。
この個展は、彼にとって初めての美術館での個展になる。これまでのギャラリーでの展示に比べると会場はかなり大きい。
「だからといって巨大なものをしっかり作る、というのは違うと思った。これまでと同じようになるべく小さく作って徐々に拡大していく、小さな声を大きく響かせるのがいいんじゃないか」
展覧会タイトルの「溶け出す都市、空白の森」は、都市やその余白に対する彼の考え方から生まれたものだ。
「都市を流動的な、変化させられるものとして見て、その中に自由な場としての空白を見つける、あるいは作ることに興味がある。都市というフレーム自体が流動的なんです」
日用品やおもちゃを積み上げたコラージュには白い石膏や樹脂がかけられている。
「白には色のひとつとして『ある』という意味と、余白、空白という『ない』という二つの側面がある。作品の白は、美術館の白い壁という存在感のある余白・空白とつながっている」
アトリエを持たない彼は今回、美術館の一室で制作を行った。
「荒木経惟さんが自分のスタジオを持っていないことに驚いた海外の人が『なぜ?』と聞いたら、荒木さんは『町中が自分のスタジオだ』と答えた。その話を聞いてかっこいいな、と思ったんです。僕は作る場所によって作品も変わる。これからもいろんな種類の場所でやりたいと思ってます」
Text:Naoko Aono
金氏徹平「溶け出す都市、空白の森」
〜5月27日
横浜美術館
神奈川県横浜市西区みなとみらい3−4−1
10:00〜18:00(金〜20:00)
木曜休
一般1000円
tel. 045-221-0300
《White Discharge(建物のようにつみあげたもの #4)》2009年
Courtesy the Artist, Photo: eric
《Teenage Fan Club #13》2008年
Courtesy the Artist, Photo: eric